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「あんた、今陶酔とか言ったな?他の妖や人間たちがどうだったか俺は知らねぇ。でも、俺達の間に陶酔なんてねぇんだよ。ただ、仲間と一緒にいて楽しい。大切だから一緒にいる。ここは俺達の家だ。家に一緒にいるのは家族なんだよ!」 「家族?何を馬鹿げたことを・・・」 「祇園寺刑事はどうなんだ?人間だろ?どうして一緒にいる?」 「私と祇園寺刑事が一緒にいるのは、互いの利害関係が一致しているからですよ」  久遠警部の隣で、祇園寺刑事は肯定とも否定ともとれる笑みを漏らす。 「利害ねぇ・・・・そんなちっせぇこと言ってるうちは、あんたに俺達のことなんてわからねぇよ」 「屁理屈ですね」 「なんとでも言えよ。別にあんたにわかってもらいたいなんて思ってねからよ」 「そうですか。主殿と話していてもどうやら埒があきそうもありませんね。私の目的のひとつは先ほども申した通り琉さんのスカウトですよ」  そう言って久遠警部は琉に視線を向けた。 「いかがですか?私のところへ来ていただけませんか」  琉は笑みを浮かべた。 「久遠警部、お断り致します」  即答する琉を久遠警部は予測していたかのように、余裕の笑みを浮かべる。 「・・・・・・そうですか・・・・琉さん、貴方の名ですが・・・・主殿から頂いた名ですね?」 「えぇ」 「名で縛られていると言うなら、力になれますよ?主殿から琉さんを解放して差し上げることができます。家族だなんだと屁理屈をならべているようですが、所詮は貴方方を名で縛り妖の優れた能力を使役したい。人間の本性です」  琉は一度目を閉じて、小さく息を漏らした。そして再び目を開いた時、普段の琉からは想像もできない程、鋭い眼光を久遠警部に向けた。 「久遠警部、私の名は志童様から頂いた大切な名です。それを貶めることは何人たりとも許されません。ひとつ、私からもお伝えさせて頂きましょう。私を初めここに居る者達は皆、自ら望んで志童様に名を頂いております。志童様がご自分の利害を考えて私達を名で縛ったことなど、一度たりともございません。これ以上、私たちの主を貶めるようであれば、私もこのままでいることはできなくなりますよ?」  久遠警部は黙ったまま琉を見ていたが、しばらくして大きなため息を漏らした。 「そうですか・・・・まぁ、残念と言えば残念ですが・・・仕方がありませんん。ではこちらも出方を変えるとしましょう」  そう言ってゆっくりと視線を志童に向ける。 「主殿、改めて正式に捜査にご協力頂きたい」 「捜査協力?」 ___こいつ、散々俺を無能呼ばわりしておりてよくもまぁ、さらりといえたもんだな・・・・図太いというか・・・無神経というか・・・  半ば呆れつつも志童は久遠警部の話に耳を傾けた。 「えぇ。本来であれば琉さんが私のところへ来てくだされば一番よかったのですが、どうも貴方方は一筋縄ではいかないようだ。それで、こちらも作戦変更というわけです。封印が解かれた今、多くの妖たちが次々に目覚めているのは主殿もご存知でしょう。そして先ほども申し上げた通り、出入り口は複数ある。今後も先日のような事件は起きるのですよ。人間の起こすことなら人間に任せておけば良いのですが、妖が悪戯に人間の世界へ干渉しすぎるのを放っておくことはできませんからね。ことにそれが殺人ともなれば_____」  ”殺人”その言葉の響きに、志童はわずかに眉を顰める。 「なぁ久遠警部、まずは最初の俺の質問の答え・・・聞かせて欲しいんだけど」 「あぁ、そんなこともありましたね。私があなた方の敵かどうか?でしたっけ?」 「そうだ・・・・」  久遠警部はふふっと笑った後で、目を細めて志童を見た。 「敵・・・・・・・ではないと思いますよ。しかしながら、先程申したように、ここにいる能力ある妖たちがなぜ主殿のような方に執着するのか・・・わからないのもまた、本音です」 「そうか・・・・わかった」 「ちょっと、志童ちゃんっ、わかった・・・じゃないわよーっ!さっきから言いたい放題言われてるってのに!」  慶覚がしびれを切らして、志童に詰め寄った。 「いやいや・・・慶覚落ち着けって」 「落ち着いてなんかいられないわよ!急にきて、失礼にも程があるじゃない!」 「まぁそうなんだけどさ・・・」  志童はふっと笑みを漏らした。それは慶覚や琉、ルドに向けられた信頼の籠った笑みであった。 「別に久遠警部になんて言われようと、俺は痛くも痒くもねぇから。だって、それは久遠警部がそう思ってるってだけってことだろ?久遠警部がどう思っていようが、俺にはどうでもいいんだよ。別に俺は久遠警部と一緒に生きているわけじゃねぇんだからさ」 「志童ちゃん・・・・・」  反対側で琉も小さく頷いた。 「おやおや・・・言ってくれますね・・・・まぁ、しかし今はそれでいいとしましょうか・・・・で、どうなんです?主殿。捜査協力の申し出は受けてくださるのでしょうか?」  志童は詰め寄る慶覚を軽く押し返すと、琉と慶覚を交互に見た。 「俺は受けてもいいと思ってる。この間みたいなことがあちこちで起こってて、それを知らん顔ってのも、目覚めが悪いしな・・・・けど、実際受けるとなれば、その負担はお前たちにいくだろ?だからお前たちがどう思うかを聞かせて欲しい」  
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