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「25人っ?それってもう連続幼児誘拐事件じゃん」 「えぇ・・・ご両親はさぞかし心を痛めていることでしょうね・・・」  天狗とは思えない程に琉は優しい心の持ち主だ。  志童はそんな琉を誇らしくも思っている。  琉は手元のパソコンを操作すると、ディスプレイをくるりと回して志童と善に見せた。  そこには誘拐された幼児の名が羅列してあった。  志童も善も食い入るようにディスプレイを凝視する。  被害者はいずれも新生児から5歳くらいまでの幼児である。最初の被害者は公園で母親のすぐ脇に置かれたベビーカーから連れ去られている。他にも、パチンコ屋の駐車場、スーパーの駐車場など、車の中に置き去りにされた幼児が数名、親と(はぐ)れた隙に連れ去られたと思われる幼児が数名、家の庭先で遊んでいて母親が目を離した一瞬の隙に忽然と姿を消した幼児が数名、中には家の中で子供が寝たすきに母親が家事をこなすその最中にいなくなった幼児もいた。 「なんか、いなくなる状況とかバラバラだな・・・」 「あぁ。外で___ましてや車の中に子供を置き去りにするなんて、何考えてんだか・・・・でも、家にいてもいなくなっちまうとなると、少し気味がわるいな・・・」  志童はぶるっと身を震わせた。  これまでにも、親がパチンコに夢中になって車内に子供を置き去りにし死なせてしまう事件などは度々あった。それを想えば、もしかしたら連れ去られることで子供は命拾いしたのかもしれない。いや、そもそも連れ去られた幼児たちが生きている保証などどこにもないのだが。 「でもさ、これ・・・テレビなんかでも騒ぐようになったのって最近だよな?こんなに多くの子供がいなくなってるのになんでだろ?」  ディプレイを見つめながらぼそりと言った善に応えたのは琉だった。 「それが、1件も身代金などの要求がないそうなんです。それで事故か誘拐か決めかねるものも多く、誘拐と断定するまでに時間がかかったようです」 「身代金目的じゃねぇとすると・・・・」  志童の脳裏に先ほどの”ロリコン”の文字が浮かんだ。世の中には幼児に対して発情する性癖を持つものも確かにいる。志童の考えを覚ったのか善が「ちょっと待て!」と、掌を志童に向けた。 「ロリコン・・・てのは、ちょっと違うんじゃねぇか?」 「は?なんでだよ?てっか、てめぇは慶覚かよ。俺の心を読むな」 「ばぁか、お前はすぐに顔にでるから、慶ちゃんじゃなくてもわかるわ」 「あ、そーですか。で?なんでロリコンじゃねぇんだよ」 「だってよ、連れ去られた子供の半分はまだ生後6か月になるかならないかだぜ?実際今日、うちの下で連れ去られた子供もまだ寝返りもできねぇ赤ん坊だって聞いた。おかしいだろ?ロリコンなら、せめてもう少し上の年齢に目ぇつけるだろ?」 「確かに・・・・」  志童は口を尖らせながらも、善の言葉に納得した。 「じゃぁあれか?てめぇの子供が死んじまったんだよ。それで、赤ん坊を攫った!」 「25人もか?多すぎだろ」 「・・・・・・・あー、俺もそう思ったよ」  志童の乏しい想像力では、犯人像を特定するには程遠い。  そんな二人のやり取りを、琉は黙ったまま見るともなしに見つめ手を口元に携えなにやら考え込んでいた。 「琉?」  ルドが足元から不思議そうに小首を傾げた。 「なにかわかったこととかあるの?」  ルドの言葉で、志童と善の視線が同時に琉に向かった。 「いえ・・・ただ、少々気になることが・・・・」 「気になること?なんだよ」 「しかし、とても漠然としておりますし・・・・」 「いや、漠然でも何でもいいから聞かせてみろって」  志童は飯野家の事件での琉の鋭い洞察力を目の当たりにしている。的外れな推理しか思いつかない志童としては、ここはどうしても気になるところだ。 「俺も聞きたい。琉、聞かせてくれよ」  善にも言われ、琉は躊躇いながらも頷いた。
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