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「どうやら貴方は、このボンクラ主の友でありながら、なかなかに優秀らしい」 「は?誰がボンクラだ!」 「いや、失礼。私は正直な質でね」  怒れる志童を、善が「どうどう」となだめる様に肩を叩く。  久遠警部の隣で祇園寺刑事が、必死に笑いを堪えている。  久遠警部と祇園寺刑事に珈琲を差し出し、去ろうとした琉を久遠警部が呼び止めた。 「琉さんにも聞いて頂きたいのです」  志童が琉を見て浅く頷くと、志童の隣に腰を下ろした。  大の男3人が並んで座るソファーは幾らか窮屈に見えた。 「事件か?」  志童が聞くと久遠時警部は目線だけで志童をちらりとみて、琉に向かって頷いて見せる。  「くぉのぉ~」と殴ってやりたい気分だが、志童はなんとか自分を抑えた。 「赤ん坊が攫われているのですよ」  志童も琉も善もはじける様に久遠警部を見た。 「おや、皆さんでどうされました?もしや既に対策でも練っておられましたか」  ふふっと久遠警部は笑った。 「そんなんじゃねえよ!ただ、そういう事件が続いてるなって話をしていただけだ」 「そうでしたか。で、琉さんいかがです?琉さんはどのようにこの事件見ます?」 「おそらく・・・・人の仕業ではないかと」  久遠警部はニヤリと笑った。 「やはり貴方は素晴らしい!そこでです。主殿、早速今回の事件に関しご協力を賜りたい」  志童は鋭い眼光で久遠警部を捉えながら静かに聞いた。 「妖の仕業だっていう保証はあるのかよ?」 「そんなものありませんよ。ただ、私はそう思っている。けれどもそれでは愚鈍な主殿はなっとくされないでしょう?ですから、琉さんのご意見を伺ったのですよ」  悔しいが、久遠警部の方が何枚も上手である。  相手がどんな妖であるかは想像もつかないが、妖によって多くの赤ん坊が連れ去られているのをこのまま放っておけば、犠牲者は更に増えるだろう。 「わかった。で、俺らは何をしたらいい」 「単刀直入に言えば、囮になって頂きたい」 「は?」 「おや、聞こえませんでしたか?囮ですよ。お・と・り」 「いや、聞こえてるわっ!そういうことを言ってんじゃねぇよ。なんだよ、囮って!危ねぇじゃねぇか!それにだいたいうちには赤ん坊なんて___」  そこまで言って、はたと止まった。  いる。いるのだ。赤ん坊が! 「あ、あ、あ・・・赤ん坊なんていねぇよ!」  志童は両手の拳を握りしめ立ち上がっていた。 「おや」  久遠警部はニヤリと笑った。 「久遠時刑事、どうやら赤ん坊がいるみたいですよ。こちらで用意する手間が省けましたね」  久遠時刑事は口元に手を当て、必死に笑いを堪えながら肩を揺らしている。 「そのようどすなぁ」 「いや、だからいねぇって!」 「志童・・・いいから座れ」  善が志童の手を引き、座らせた。  志童は昔から駆け引きや嘘が苦手で、その上思ったことが顔にでる。  善はため息をついた。 「赤ん坊がいることにはいますが、その子を提供するわけには参りません。夕べ生まれたばかりのコロポックルの子です。そもそも最初のお約束の際に、志童様からこちらが否と判断した場合は拒否権があると・・・久遠警部は約束されたはずです」 「なるほど琉さん、そういうことでしたねぇ。まぁいいでしょう。実際囮には危険がつきものです。夕べ生まれたばかりの子供を使うほど私も鬼ではありませんから」 「鬼じゃなくて化け狐だろうがっ」  志童の呟きに久遠警部はちらりと志童を見ただけだった。  隣で祇園寺刑事は肩を揺らしていた。
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