死者の誕生日

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 そして今志童がなぜ白金の高級住宅街で、ヘタレっぷりを発揮しているかというと______。  ことの起こりは2週間前だった。  突然、扉が開き入って来たのは親友の甲斐尊。  ルドが尊をみるなり、満面の笑みで飛びついた。  この妖さえも容易に手なずけてしまう甲斐尊なる男は、国内外にホテルを経営する言わずと知れたホテル王甲斐淳之介を父に持つ、正真正銘のお坊ちゃまだ。まぁ、そういう意味では大手フードメーカーを一代で築き上げた父親を持つ志童も同じなのだが、どういうわけでこうなったのか____ダメ人間代表のような志童とは逆に、中身も立派なお坊ちゃまなのが尊だった。  有名ブランドメーカーのスーツをさらりと着こなし、腕にはフランクミュラーの腕時計が一切の嫌味をかき消して、まるでそこにいるのが当然かの様に収まっている。  「ぉお~、尊かぁ~」  たった今までうつらうつらしていた志童が、寝ぼけた目を擦りながら尊を迎えたが、こんな志童の駄目っぷりはもう慣れっこである。  志童の向いに腰を下ろすと、琉の入れた珈琲を優雅に口につける。 「最近はどうだ?」 「どうだって・・・・まぁ、いつも通りかなぁ?」 「そうか」  尊は満足そうに頷いた。  志童がそう答えることが、平和な毎日を意味することを知っているからだ。 「ところで志童、これなんだけど」  そう言って、尊は一通の封筒を懐から取り出した。  差出人に、飯野香澄(いいのかすみ)とある。  志童は既に封の切られているその封筒の中身を取り出した。 「招待状?」 「あぁ、実はそうなんだ。以前うちのホテルのコンセプトに合わせて家具を全てデザインしてもらったことがあるんだけど、その時のデザイナーが彼女の父親で飯野庄吾(いいのしょうご)さんなんだ。差出人はその娘の飯野香澄さん。まぁ俺も2回程会ったことはあるけど、軽い世間話をした程度だ」 「ふぅ~ん・・・・」  志童は気のない返事をすると、招待状を琉に渡した。  受け取り中を見た琉が言う。 「飯野香澄さんのお母様・・・つまりそのデザイナーの飯野庄吾様の奥方のお誕生日会の招待状のようですね」 「あぁ、そうなんだ・・・・。それでだ。単刀直入に言うと、お前に俺の代わりに出席してほしい」  志童は呑みかけていた珈琲を吹き出した。 「ごほっ・・・ごほっ・・・・・んんっ・・・げほっ・・・・はぁ?なんでだよ。お前が招待されたパーティーだろうが。都合が悪けりゃ欠席で返信すりゃすむことだろうが」 「まぁそうなんだけど・・・、なかなかそうもいかなくてね。で、俺はその日はどうしても都合が悪い・・・・というか、日本にいない。今日この後ニューヨークに向けて立つんだけど、新しいホテル建設の下見だからまぁ少なくても半月はかえってこれねぇんだ。ということで、志童、お前が代わりに行けば解決だろ?」 「いや・・・尊さん?それで何が解決するのか、俺には全然全く何にもわからねぇんだけど?」 「先方には俺から言っておくよ。俺が信頼をおいている友人が代わりに行くってね。まぁ旨い飯食って、ニコニコしてりゃぁすぐに終わるから。じゃ、頼んだぞ」 「えっ?あっ、ちょっと待て!尊!だったら善に_____」 「志童様、もう尊様はいらっしゃいませんよ?」 「わぁーってるって!あの野郎!確信犯だ!」  俺はソファーの上に足を乗せると、膝を抱えて膝の隙間に顔を埋めた。 「なんでだ?なんで俺が知らねぇばばぁの誕生日に行かなきゃならねぇんだよ!」 「まぁまぁそう言わずに・・・・おや?」  招待状を見ていた琉が首を傾げる。 「どうやらこのパティーはご自宅で開催されるようですよ?珍しいですね・・・ホテルなどを借りてするのが一般的ではありますが・・・何か訳ありなのでしょうか?」 「知らねー・・・どうせ、ホテル借りる程呼ぶ友達がいねぇとかそんなんだろ?なんせ、俺が代理で行くくらいだ。ありえるだろ?」 「まさか!志童様でもあるまいし・・・うーん・・・・どういうことでしょうか・・・・」  琉は片手を顎に添えて、しばらく考えていた。
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