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その後も暫く、香澄は志童と琉に付きっりきだったが、遅れてきた客を出迎えるために香澄は志童たちの元を去っていった。
やっとのことで香澄から解放された志童は、会場の端で一息ついていた。
背後の大きな窓はそのまま庭に出られるようになっている。
「あのお嬢さん、ずっと俺達にくっついてくるからさぁ・・・あ~疲れた」
「しかしながら、志童様。いつもながら完璧な仮面を被っておられましたよ。流石は一応、良家ご出身なだけはあります!」
「一応ってなんだよ・・・・ってか、今のお嬢さんの相手だけでもう俺のノルマ達成だろ?もう帰ろうぜ」
「駄目にきまっております。パーティーが終了するまでは辛抱なさってください」
「まじかよ・・・・・ぁあ~、もぉ帰りてぇ。ルドをもふもふしてぇ・・・」
「確かにルドさんのモフモフは癒されますからね」
「だろ?・・・・・・・ってかさ、琉・・・変・・・だと思わねぇか?」
「何がですか?」
「このパーティーだよ!なんで死んだ人間の誕生を祝ってるんだ?」
「そうですね・・・通常ならこれは3回忌・・・と呼ぶべきものなのでしょうが・・・・」
「それにあの庄吾さんの奥さん・・・杏子さんだっけ?若すぎるだろ?」
「志童様、恋愛は人それぞれですよ。友人の母親と結婚したスポーツ選手もいるのですから、愛は年齢の差を超えると言うことですよ」
志童と琉が小声で話していると、突然に背後から声をかけられた。
「お飲み物はたりてるかしら?」
「えっ、あぁはい・・・・」
振り向いた志童はしどろもどろになった。
たった今自分たちが噂をしていた杏子がそこに立っていたのだ。
杏子から新しいシャンパンを受け取ると、志童は愛想笑いを浮かべた。決して悪口を言っていたわけではないのだが、やはりどこか後ろめたい。琉はいつも通り涼やかな顔をしている。
「あなた・・・楓の弟さんよね?」
「へっ・・・・」
全く予期してなかった名をだされ、志童は持ったグラスを落としそうになった。
「あの・・・姉を・・・ご存知で?」
「えぇ、私、楓とは同級だったのよ」
「っ!」
思わず会場を見渡していた。
___まさかここに楓がっ?
志童にとって楓はそこらの妖怪よりも驚異の存在なのだ。
そんな志童を見て、杏子はクスリと笑った。
「安心して。楓は来てないわ」
「あ・・・あぁ、そうですか・・・・ハハ・・・・」
一瞬で全身にかいた嫌な汗が、安堵と共にひいていく。
「私なんかが・・・・友達を呼べるわけないもの・・・・」
「え?」
「あっ、ううん。なんでもないの。楽しんでくださいね。それでは」
そう言って杏子はそそくさとその場を去っていった。
「まじかよ・・・楓と同級ってことは・・・・32だろ?庄吾さんがいくつか知んねぇけど、20は離れてるよな・・・」
「そうですね・・・しかし、先程も申し上げたとおり、愛は年齢をこえるのですよ。あまりその辺については触れないほうがよろしいかと・・・。とはいえ・・・先ほどの言葉・・・・もしかしたら彼女は今、幸せではないのかもしれませんね・・・・」
「琉・・・お前が愛を語る日が来るとは驚いたよ」
「そうですか?こう見えて私志童様よりモテるのですよ」
「・・・・・・そう・・・・」
軽口を叩きながらも志童と琉は、去っていく杏子の背中をじっと見ていた。
その後もパーティーは志童と琉が持った多少の違和感を覗けば、滞りなく進行し、残すところあと数十分となった時だった。
会場を駆け抜けるように突如上げられた女の悲鳴。
一気に会場は騒然となった。
やがて、悲鳴を上げた女の周囲からざわつき始めた。
「何かあったのでしょうか?」
「ちょっと行ってみるか?」
騒ぎの中心はビュフェ形式の料理が並ぶその近くだった。
人ごみをかきわけて最前列に出ると、そこには悲鳴の本人と思われる女が腰を抜かし全身をガタガタと震わせている。
辺りには女がとろうとしていたのか、クリームパスタが散らばっていた。
「志童様、あれを」
琉に言われ向けた視線の先。
並んだ料理のひとつ、クリームパスタ。
その中に、丸い玉のようなものが混じっていた。
ふたつある。
その玉がなんであるか、それを理解したとき志童は全身鳥肌が立つのを感じていた。
それは人の目であった。
丸い眼球が丸ごとくり抜かれ、まるでパスタの具だとでもいうかのようにクリームまみれになっていたのである。
「一体なんの騒ぎですの!」
声を荒げた香澄が現れた。
「香澄さん、あれ・・・」
志童は香澄に耳打ちするように、目線でクリームパスタを促した。
そうしてそこにある、あってはならないものに気が付いた香澄は悲鳴を上げた。
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