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 年の頃は志童と同じくらいに見えた。  色の白い男だった。  いや、白いといえば白い。が、白すぎるのだ。  首筋の血管が青く見える程に、肌が白い。  整った顔立ちに、色素の薄い目は普段は薄い茶色であるのに光の反射で青にも紫にも見えた。  サラサラの髪の毛をかき上げて男は笑った。  その笑みが怖いのだ。  いや、違う。  志童は考えた。 ___そうだ・・・気配だ。気配がしなかった・・・・  普段であれば、仮に志童が気づかない気配でもそれを琉までが気づかないなどと言うことはまずない。  それが、この男に至っては声をかけられるまで琉さえも気づかなかったのだ。  その琉は、じっと男と視線を交えている。  両者黙ったままであったが、最初に口を開いたのは男の方だった。 「君・・・人じゃないね?」 「っ!」  その言葉に志童は全身が硬直したように動けなくなった。 ___まずい、どうする・・・どうする・・・どうする・・・どうする!  いくら考えてもいい考えが見当たらず、思わず琉を見た時だった。 「そういう貴方こそ・・・」 「へ?」  今度は随分と間抜けな声がでた。 「え?人じゃないって・・・・この人刑事・・・だよな?」  男はくすりと笑って、懐から警察手帳を出すと志童に見せた。 「正真正銘刑事。久遠雪平(くおんゆきひら)です」 「そんなっ・・・・・だってあや・・・」  そこまで言って志童は言葉を飲み込んだ。  まさか妖が刑事なんて・・・と言おうとしたが、冷静に考えれば志童の元では天狗が秘書兼執事を務め、お歯黒べったりと髪切りが美容室を営み、覚が占い師をしている。ないことではないのかもしれないと寸でのところで言葉を飲み込んだのだった。 「一応聞きますが、あれやったの君たちですか?」 何色ともつかない瞳を志童と琉に向けて聞いた久遠雪平に志童は首を横にぶんぶん振った。 「いや・・・ちが・・・そんな、人殺しなんてっ!」 「私たちではありません」  そう言った琉を一瞬鋭い眼光で見据えたあとで、久遠雪平はふふふっと笑った。 「でしょうね。まぁ天狗さんなら吸い出した目玉はそのまま食べちゃうだろうし、まぁ殺すのもあんなに醜い方法はとらないでしょうから」  琉は笑わなかった。 「はぁ?天狗は目玉なんて喰わねぇだろうが!バカ言ってんじゃねぇよ!」 「ところで____君、名前は?」 「私は琉。こちらは主の庵野雲志童氏です」 ___俺、無視かよっ! 「そうですか・・・琉さんですか。それなら協力して貰えませんか?君の千里眼で犯人を見て頂けると助かるのですがね」  まるで、空腹だからちゃちゃっとチャーハン作ってよと言わんばかりの手軽さで琉の千里眼を所望してきた。 「残念ですが・・・・それはできないのです」 「はて?どうしてでしょう」  久遠雪平が首を傾げた。まるで精工に作られた洋人形のように美しかった。 「おそらく、私たち以外にもここにはいらっしゃるようです」  その言葉に志童が付け加える。 「なんか結界みてぇのが張ってあって琉の力が使えないらしいんだ」 「そうですか・・・・では、このおかしな気配は・・・琉さんではないのかもれませんね」 「久遠警部」  背後から鑑識らしき男から声がかかった。 ___え?警部?今警部って言った?妖の上警部・・・・  志童が全く別のことに気を取られ小さな胸の傷を作っている間にも話は進む。 「何か見つかりましたか?」 「えぇ・・・これなんですが・・・・」  そう言って見せられたのは、保存袋に入った小さな指輪だった。 「これは・・・・ピンキーリングでしょうか?では、もう少し関係者から事情を聴くとしましょうか」  そう言って久遠警部は両手を背中で組んだまま屋敷の中へ入っていった。 「・・・・・びっくりしたぁ・・・・」  大きく息を吐きながらそう言った志童に、琉は小さく笑う。 「えぇ、私も驚きました。まさかあのような方がおられるとは」 「で、あいつ・・・警察なんてやってるくらいだから・・・変な奴じゃねぇよな?」 「さて、どうでしょうね。そうでないことを祈りましょう」  顔を見合わせふたりで苦笑いした後で屋敷の中へ戻ると、ちょうど久遠警部が先程のリングを飯野家の家族に見せているところだった。
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