第102話 【不穏】

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    霊脈(れいみゃく)(そび)える総本山(そうほんざん)─── 【四天叡聡寺(してんえいそうじ)】。 四天明宗(してんめいしゅう)総本部(そうほんぶ)であり、(かぎ)られた者しか立ち入れぬ場所。 講堂(こうどう)の玄関前に、(かげ)がふたつ。 ひとつは、退魔師(たいまし)・『蘇芳(すおう)』。 ひとつは、百鬼(ひゃっき)案内人(あんないにん)・『五乃笠(ごのがさ) 慧玄(えげん)』である。 ふたりとも、四天明宗の出で、いまは破門(はもん)されている。 「なあ、慧玄」 「なんでしょう」 「居心地(いごこち)はどうよ?何十年ぶりの“胎内(たいない)”は」 「ひひ。(あい)()わらずで」 慧玄の()げた餉箱(げばこ)がごとりと音を立てた。 講堂から、師僧(しそう)がひとりあらわれた。 東山(とうざん)エリアの寺院を統治する『黄丹(おうに)一身阿闍梨(いっしんあじゃり)である。 「よォ”菊帯(きくオビ)”さんよ。やっと事態(じたい)の重大さがわかったかよ」 「───」 「そのようすだと、ちゃんと告げたようだな。『鞍馬(くらま)大僧正(だいそうじょう)』さまに、おれの言伝(ことづて)を」 黄丹は軽く眉根(まゆね)を寄せた。 「さすが“同期(どうき)”なだけあるよなァ」 蘇芳が、頭のうしろで腕を組んだ。 「だまれ、『白晄(びゃっこう)』。だからきさまを尊重(そんちょう)し、特例(とくれい)ではあるが、わが総本山の敷居(しきい)(また)がせた」 「境内(けいだい)石畳(いしだたみ)までってどういうことよ。せめて講堂(なか)にいれろや」 「()に乗るな。本来はきさまがここにいること自体、あってはならぬ」 「どうやらほかの師僧さまにもご内密(ないみつ)になさられたごようす」 慧玄のぬめりとした口調に、黄丹は不愉快(ふゆかい)に口を曲げた。 「端的(たんてき)に云おう」 【モンショウ】が復活するかもしれん───。  
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