虹霓の彼方

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一番遠くの山で、白いリボンが舞い上がるように花が流れて行った。 「純…」 「厭です」 「はっ、まだ何も言ってないだろ」 「俺、手、離しませんよ」 「後ろがつかえてる。純…今日は純と花見が出来て良かった…。気持ち良く晴れて、花見日和。真っ直ぐ、振り向かないで歩け。龍神が元の場所に運んでくれる」 「篠さん、篠さんも一緒に行こう」 「それは出来ないよ」 「じゃ、俺が此処に居る。俺が篠さんと一緒に居る」 「純…百合子 純、これは上司命令」 「そんな命令聞けません」 「純…」 「また会えるって、また花見に行くって、約束して下さい」 俺は自分でもよくわからないくらい、必死だった。 今、引き留めなければ、二度と会えない。そんな気がした。 明日も明後日も、いつもと変わらずやって来ると、疑いもしなかったから。 今、目の前にいる篠さんは、何処へも行かせない。 篠さんは、やれやれという顔をした。 「わかった。いつかまた会える。あの雫が石を穿つように。出逢いの瞬間か訪れるように。いつか会える。それに、おまえの此処、此処には俺が居るんだろ。だったら、いつでも会えるじゃないか。なっ」 篠さんの指先が胸を突く。 入社して一年余、篠さんの異動の日のことを思い出していた。 頭を下げた足元に零れた涙。 「また、そんな顔する。実は俺、おまえのその顔に弱い。約束するから」 篠さんはそう言って笑うと、掌の火傷の跡を確かめて、髪にクシャッと触れた。 「さぁ、行けっ」 背中がドンっと強く押された。
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