虹霓の彼方

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「えっ?」 髪に触れ、笑った篠さんの顔が目の端から流れる。 押し出されて、落下するのだと思った瞬間、俺は龍の硬い鱗に覆われた背を掴んでいた。 振り返ってはいけないと言われたけれど、振り向いた。 半分消えた虹の一番前で、篠さんが手を挙げていた。 胸のタイピンが光を集めている。 「篠さーん、篠さーんっ」 声を限りに篠さんを呼んだ。 龍は一回転すると、その虹の、遥か上空を飛び、急降下した。 大きな虹の根元から、大勢の人たちがひしめき合うように連なっているのが一瞬見えた。 虹の橋の頂上を目指して。 あの人混みの中に、つい今まで居た。 篠さんと手を繋いで居た。 いつ手が離れた? いつ手を離した…。 「篠さぁん、篠さぁん…」 声が頭の中で反響している。 天空を駆ける龍は光の速さ。 抱きしめた龍の鱗が一枚剥がれ落ち、ああ、宙へ投げ出される。 落ちる…。 ふわりと身体が浮いた。
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