虹霓の彼方

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翌日は薄曇り。 やけに早く目が覚めてしまった。 まだひと気もまばらな朝に走り出す。 昨年の5月。 あの心身の不調は何だったのだろう。 篠さんが研修から戻らない、予定より2ヶ月も過ぎていることへのストレスだったのだろうか。 突然アパートにやって来て、ドライブに誘ってくれた。 愛車のMINIに乗って、海岸線を行く。 80年代ポップスを口ずさみ、 「海は涙で出来ているんだって。だから枯れることなく、寄せ返す…」 と言った。 悲しい時、 嬉しい時、 涙は零れる。 でも、哀しみが深い時、涙は零れることを知らない。 人の生は、余りに儚くて…。 空を覆っていた雲が、ゆっくり吹き払われて、海の表面に薄い空色が映る。 横たわる春の海を感じながら、バイクを走らせた。
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