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篠さんは、繋いだ手を前に出して、まじまじと見ると
「やっぱ、なかなか消えないんだな。火傷の跡は…」
と言った。
禁煙のデスクで火を着けた。つい、差し出した俺の手に細い煙草が押し付けられて出来た小さな火傷。
女子でもないし、全然気にしてないと何度も言っているのに。
「左手は先天的な運勢。右手は現在から未来を見るんだよ。運命線のど真ん中。孔開いてないだろうな?」
「孔が開いてたら、未来が見えるかもしれないですね」
「馬鹿なことを」
「俺、そういうの信じてないんで」
「そうかぁ?」
「言ってもいいですか?俺が信じてるのは、篠さんだけですよ」
「う、わっ、それ、口説き文句だな。
何も出ないぞ」
「いいです。俺、篠さんと一緒に歩ければ、それで…」
「なんて、そこが純の可愛いとこで、怖いとこだな」
「可愛くて怖いって何ですか。ね、篠さん、何処に向かってるんです?何かあるんですか?」
随分な人混みなのに、ぶつかることなくすれ違う、都会のスクランブル交差点のように、肩が触れることもなく、ずっと同じ歩調で歩いている気がする。
そして、皆、其々笑ったり、話たりしているのに、声は全く聞こえなかった。
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