3人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
「篠さん?」
「なんだ?」
「いえ…」
俺は篠さんの手をきつく握りしめていた。
「花見に行くんだよ。龍神の。この辺りの山八方には、龍神のために山桜が何万本と植えられているんだ。朝に昼に夜に、色とりとりの桜が絶え間なく咲き、散って、それはもう苦しいほどに美しい…」
「苦しいほどに…美しい…」
「遮るもののない、高い所から、純に見せたかったから…」
「篠さん…」
歩みが止まった。
「純…」
篠さんが指差す向こう。
連なる山々は、緑、若緑、桜萌黄、
白、桜色、薄紅…山肌を美しく染めていた。
「あ、薄紅紫…篠さん、シャツの色に似てる。本当、綺麗だ。蕾も花も、散るも美しい。あとどのくらいの間咲いているんでしょう」
「最後の一輪が散る時、龍神は優しい優しい雨を降らせるからわかる」
「篠さん、学校の桜は蕾が膨らみかけた処ですよ。今年は春が遅い」
「そう思っているうちに、すぐに満開になって、惜しげもなく散る…純、本当にあっという間だからな。後悔しないよう、精一杯生きろよ」
「え?何ですか?それ、訓示?」
「なんとでも言え」
髪にクシャッと触れて笑った。
最初のコメントを投稿しよう!