虹霓の彼方

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「篠さん?」 「なんだ?」 「いえ…」 俺は篠さんの手をきつく握りしめていた。 「花見に行くんだよ。龍神の。この辺りの山八方には、龍神のために山桜が何万本と植えられているんだ。朝に昼に夜に、色とりとりの桜が絶え間なく咲き、散って、それはもう苦しいほどに美しい…」 「苦しいほどに…美しい…」 「遮るもののない、高い所から、純に見せたかったから…」 「篠さん…」 歩みが止まった。 「純…」 篠さんが指差す向こう。 連なる山々は、緑、若緑、桜萌黄、 白、桜色、薄紅…山肌を美しく染めていた。 「あ、薄紅紫…篠さん、シャツの色に似てる。本当、綺麗だ。蕾も花も、散るも美しい。あとどのくらいの間咲いているんでしょう」 「最後の一輪が散る時、龍神は優しい優しい雨を降らせるからわかる」 「篠さん、学校の桜は蕾が膨らみかけた処ですよ。今年は春が遅い」 「そう思っているうちに、すぐに満開になって、惜しげもなく散る…純、本当にあっという間だからな。後悔しないよう、精一杯生きろよ」 「え?何ですか?それ、訓示?」 「なんとでも言え」 髪にクシャッと触れて笑った。
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