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先生の声音は、淡々としていた。今の先生は、まるでインプットされた言葉を流す機械のようで、人の感情に敏感な私でも、何も感じることができない。
瞳も、ガラス玉のように無機質だ。
先生は、本当に「普通」の、どこにでもいる非常勤講師でありハンドメイド作家だ。もっとも、他に仕事をしているのかなど、先生について知っていることは殆どない。私は先生を知らない。先生が私を知らないように。
「なんだか、急展開ですが」
私は、呟くように言った。
「とてもきれいな方ですね。お父様のお写真はないんですか?」
「実家にある……が」
先生の瞳が、泳いでいた。誤魔化しだとか、そう言った挙動不審なものではなく、混乱に近い印象を受ける。
「話を誤魔化そうとしているわけじゃありません。先生のことを、知らなかったので、知ることができて嬉しいんです。お父様のお顔も見たいなって、思って」
慎重に、言葉を選ぶ。そこに偽りは微塵もなく、自分の気持ちを整理しながら、本当に伝えたいことを、告げるのだ。
「先生のこと、もっと聞いてもいいですか。嫌なら、黙秘権を行使で」
「何を知りたいんだ」
「年齢とか?」
途端に、先生が顔をしかめた。はぁ? と聞こえてきそうだ。
「今のいままで、知らなかったのか」
「今も現在進行形で知りません」
「三十二だ」
「そうですか」
「それだけか? 聞いておいて」
「はい。まぁ、予想以内なので、なんとも」
「きみが私について聞くのは、初めてだな。面白い、出来る限り答えてやろう」
なぜそんなに偉そうなんだろう。先生の情報は、そこまで機密事項なのか。などと思ったが、先生について未だに大多数の女生徒は興味深々だ。
私生活についてなら、どんなことでも知りたいだろう。
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