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彼は、私を覚えていないに違いない。
私がそう確信したのは、授業が淡々と進んでいくからだ。選択授業は、一組と二組の合同ゆえに、見覚えのない生徒もいる。そんななかの一人として、私もいるわけだが、今朝の失礼極まりない発言をしたクラフト教師は、私のほうをちらりとも見ることなく、高齢者の年代に合わせたクラフトについて、説明をしていた。
後半、実際にやってみようと、ちぎり絵をつくった。めでたい柄の和紙を、鯛や猫、ヒョウタンの形に指で丁寧にちぎり、ミニ色紙に張り付けるというものだ。
物づくりは、好きだ。
決められた道を進む物理や数学は苦手だが、自由な発想を飛ばせる美術は、関わるだけで心が柔らかくなる気がする。
授業は、ミニ色紙に、日付けとめでたい言葉を一言入れたところで、終わった。作った作品は各々持って帰るため、生徒たちは作品を片手に教室を出ていく。
私も、自分の教室に戻ろうと、作ったミニ色紙を持った――いや、持とうとした。
だが、ついさっきまで手元にあったはずの色紙が、どこにもない。
「どうかしましたか?」
クラフト教師が、私の異変に気付いて声をかけてくる。その頃には、教室に残った生徒は私だけになっていた。
「あの、色紙がどこかにいってしまったみたいで」
「これですか?」
クラフト教師の手の中に、私がつくった、赤色の瓢箪を張り付けた色紙があった。ぱっと微笑んで手を伸ばす。
「ありがとうございます!」
「――舐められたものだな」
あ。
聞き覚えのある、冷ややかな声。クラフト教師の柔和な笑みは消えて、半眼になり、ため息までついている。私、何かしちゃったのだろうか。
というか、この人は、何か嫌なことがあると、態度を豹変させる人種なのだろうか。
「そうは思わないか?」
「え? えっと……何が」
「生徒だ!」
クラフト教師は、軽く机をたたいた。それでも、ドン、という音が教室内に響いて、私は体をびくつかせる。
「二クラス合わせて、たった十人? 八十人中、十人?」
「はい、あの……メイクと茶道は人気があるみたいで」
「クラフトのほうが楽しいだろう!」
「ひとそれぞれじゃ」
言ってしまってから、後悔した。クラフト教師の目が、私を捉えたのだ。
「きみから、そんな言葉が出るなんてな。自分の考えを他者に押し付けて見下し、被害者ぶる人種だと思っていた」
露骨に、軽蔑した声音だった。なぜまた、こんなにも罵倒されねばならないのか。
悲しさよりも、怒りよりも、呆れに近いものを覚えた私に、クラフト教師は、付け加えるように言った。
「今朝も、会っただろう?」
「う」
「なんだ、その、う、というのは」
私は、視線を泳がせたが、沈黙が下りただけだった。返事を待っている気配を察して、口をひらく。
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