第二章 2、渡月は、須藤先生と一緒に暮らす

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 須藤先生が、私に仕事を教えてくれるから。ほかの誰にも出来ない助手としての作業を、任せてくれるから。 「渡月の持ってるアクセ、可愛いよねぇ。前から思ってたんだ。鞄とか、携帯とかにつけてるじゃん。どこで売ってんの?」 「これはネットショップ。全部手作りだから、作家さんから直接買うんだよ」 「へぇ、わざわざ取り寄せてるってこと? こだわってるんだねぇ」 「好きなんだ、こういうの」 「だから、選択授業もクラフト行ったんだね。私は茶道だから、なんか、私自身だんだん上品になっていってる気がする」 「……へぇ」 「なにその間!」  けらけらと、加納さんはよく笑う。きついと勘違いされがちだが、どこまでも真っ直ぐだ。 「で、どう? あれから、石井先生の情報は入手できた?」  そして、彼女の特徴として、話題がころころ変わる。  私は、首を横にふった。 「彼女もちだとか既婚者だとか、そういうのは全くわからない」 「そっか、あんなに格好いい人だもんね」 「気になるなら、かの……みこちゃんも、話しかけに行ってみたら?」 「やめとく。あんまり関わったら、理想が壊れそうだもん」  そう言って、加納さん、改め、みこちゃんは、お弁当の卵焼きを頬張った。「うまー」と独り言を呟きながら、マグで持ってきているお茶を飲んだ。 「理想、って?」 「渡月は、そういうの興味なさそうだもんね。石井先生は格好いいし、実際に好きになっちゃった生徒も多いと思うけどさ」 「うん」  そういう話は、聞こえてくる。石井先生恋人いるのかな、本気で好きになっちゃったよ、とか、そういうたぐいの話だ。 「まぁ、全部が全部否定はできないんだけど、いわゆる、外向けの姿を見て惚れたってことでしょ? それに加えて、石井先生は見た目がいいし。今、好感度はすっごい高いの、これ以上ないくらい」 「……そうなんだ」 「そそ。だから、現実を知って幻滅したくないっていうのが、私の感想。恋人がいないなら、どんな人が好みなんだろうとか、恋人がいるなら、石井先生に釣り合う美女ってどんな人だろーって話せるじゃん?」
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