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「つまり、みこちゃんは先生の話題で盛り上がりたいんであって、親しくしたいわけじゃない、ってこと?」
「そんなとこかな。あ、誤解しないでね。本気で惚れたのーっていう人たちを否定してるわけじゃないから。私は、見てるだけがいいの。むしろ、身近なアイドルみたいに、話題にして盛り上がれたら、それが楽しいかな」
手が届かないから見ているだけ、とも取れる言葉だけれど。みこちゃんは、本当に石井先生との進展を求めているわけではなく、ただ話題の一つとして盛り上がりたいだけらしい。
「あ、変な顔してる」
「え」
「ほら、言ってみ」
みこちゃんは、私を見てにやにや笑う。一体、私はどんな顔をしているんだろう。頬に手を当てると、みこちゃんは「ほれほれ」と促してきた。
私は、言葉を吟味してから、口をひらいた。
「わいわい話すことが、楽しいの?」
「そうだよ」
「緊張しない?」
「なんで。だべるだけだよ」
みこちゃんは、ふと、真面目な顔をして、考える素振りをみせた。
「渡月は、いつからそんなに緊張するようになったの?」
「話すこと、だよね。えっと、高校のときには緊張してたかな」
「もっと前は?」
「……中学の頃は、少しだけ、自由だった気もする。でも、小学生のころは、やっぱり緊張したかな」
「うーん。なんでだろうね」
「臆病なんだよ、私。人の顔色ばっかり見て」
「他人と比べて自分の評価を気にしてる人たちより、ずーっとマシ。私、高校がそれなりに偏差値高いとこ行ったんだけど、他者より有利に立ちたがる人ばっかりで、教師もそれを煽るしさ。なんか、ギスギスしてる三年間で、精神的にしんどかったの。親は反対したけど、この専門にきてよかったよ」
みこちゃんは、何事もないかのように、自分のことを話してくれた。それに。私を否定も肯定もせず、ただ話を聞いて傍にいてくれる。
「みこちゃんは、本当にいい子なんだね。石井先生ネタにして遊んでるけど」
「ふはっ、渡月、一言多い! そういう黒いとこ、私嫌いじゃないよ」
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