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「私のことなんて、忘れてるんだとばかり思ってました」
「私が、きみを? まさか。あれだけ卑屈な少女を見て、不愉快にならないほうがおかしい。そして不愉快さは記憶に残る。私は根に持つタイプだからな、嫌なことがあると忘れない」
「……わー」
罵倒なんてものではない。教師の言うことではないだろうに。
なのに、不思議と、今朝のように心が凍ることはなかった。今朝の一言は私の心を凍てつかせたが、今、クラフト教師が並べた言葉は、言葉の意味や量ほど、私をえぐりはしない。
この差は一体なんだろう、と考える間もなく。
「学校が終わったら、餅飯殿へこい。噴水を過ぎた先、左へ曲がる路地がある。そのままならまちへ入ると、右手側に私のアトリエがある」
「は? え、あ、あの……え?」
「もういい、戻れ」
さっ、と手を振られて、追いやられるように教室から出た。ぴしゃりとドアがしまって、丁寧にがちゃりと鍵までしまる音がする。
私は、ぽかんとしたまま立ち尽くした。
彼はなんと言った?
学校が終わったら、アトリエに来いと?
まさか。「もういい」と最後に言ったあの言葉は、やっぱりこなくていい、という意味だったのかもしれない。そもそも、私だけアトリエに呼び出される意味がわからない。嫌がらせだろうか。とはいえ、そこまでされる筋合いは――。
「こなかったら、単位はないものと思え」
ドアの向こうから聞こえた理不尽すぎる言葉に、私はあんぐりと口をひらいた。
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