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「母親も、海外か」
「いませんよ」
「そうか」
先生は、そこは深く問わなかった。聞かれてもわからないので、助かったと思いながらパスタを頬張る。母親に関しては、会ったこともないし、話を聞いたこともない。他界したとか、離婚したとか、そんなことも知らないのだ。
それが、当たり前だった。
これまでの私は、自分自身が生きてきたすべてが「当たり前」なことだったから、違和感などなかったし、正しいことだと思ってきた。けれど、先生に会って、みこちゃんたちと話して、バイトの接客でいろいろな人とお話して。
私のなかの価値観が大きく変わり、同時に、私自身へ違和感を覚えた。
海外赴任中のお父さん。
毎朝、電話がくる。とてもやさしい声で、私を心配してくれている、お父さん。
でも、私は一度として「お父さん」の姿を見たことがない。
会ったことがない。
――私は、お父さんの顔を知らない。
***
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