第二章 4、渡月とお父さん

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 須藤先生。  出会いは最悪だったけれど、私がひそかに鞄につけていたハンドメイド作品に気づいて、気に留めてくれた人。私をしっかりと見て、一個の人間として、話をしてくれる人。  今頃、先生はまた作品作りに没頭しているだろうか。休憩もとらずに、浮かばないアイデアをなんとか形にしようと必死になっているかもしれない。  早く戻ろう。  休憩室やお風呂、借りている部屋の掃除もしたい。  パソコンの電源を落とそうとして、ふと、ネット画面を立ち上げた。こそこそしているようで戸惑ったが、すぐに吹っ切ったようにタイピングする。 ――須藤由紀子  そう打ち込むと、「大量殺人犯」「ミス・ジャックザリッパー」などとでてくる。そして同時に「現代のモリアーティ」という検索ワードも浮上した。そちらも気にはなったが、まずは、須藤由紀子に関して調べてみた。  ネットの一覧から、犯罪者ファイリングなるサイトをクリックして、須藤由紀子について読もうと思ったが、どれだけクリックしても、ネットの一覧からページが飛ばない。  回線不良か、禁止だったのか。  おそらく後者だろう、と感じた瞬間、パソコンの電源を落としていた。背筋に冷たいものが流れて、ふらふらと後ろへ下がる。  このパソコンはお父さんがくれたものだ。  もちろんネットも使えるが、一部の言葉を検索すると、そのワード関係の検索結果が閲覧できない場合がある。それらのワードは「禁止ワード」といって、お父さんが私に検索させたくない文字を設定しているということだった。  それは、パソコンも携帯電話も同じこと。  禁止ワードについて、失念していた。これまでネットを使うことなんて、そうそうなかったから。  怖い。……怖い、怖い、怖い!  過去に見た美しい女性が、須藤由紀子であると知って。過去に体験しただろうことを、少しだけ、思い出して。私を取り巻く世界が、徐々に崩壊していた。  本当はとっくに気づいていたんだと思う。  でも、知りたくなかった。  私は、本当に、知りたくなかったんだ。  ***
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