終章

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「みこちゃん、先生と私が一緒にいたところ見たみたいです」 「ほう」 「で、つけないとか最低、って言ってました。みこちゃん、面白いですねー」 「……おい、おい! 待て、彼女になんと言ったんだ!」 「あ」  紙袋を開くと、中から手のひらサイズの箱が出てきた。 「見てください、今度は箱入りの避妊具ですよ。……使わないって言ったのに、こんなにたくさん」 「使わないってなんだ。関係をもってない、というべきだろうが! それではまるで私が最低な男……おい、しかもなんだそれは! なぜSサイズなんだっ!」 「ほんとだ、サイズとかあるんですねー」 「完全なる嫌がらせだ! 捨てろっ」 「だ、駄目です。みこちゃんがくれたんですから、ちゃんと使わないと」 「誰と使う気だ! 私は、こ、こ、こんなもの、使えるわけがないだろうっ」  なぜ怒るのだろうか。  確か、前にも避妊具を貰ったときに怒っていた。あまり先生の機嫌を損ねるのはよろしくない。お腹も減っているだろうから、そろそろいつも通り夕食にしよう。  みこちゃんからのプレゼントを袋ごと鞄に突っ込んで、夕食の仕上げにとりかかる。今日は簡単なものを予定しており、下ごしらえうんぬんは昨夜のうちにしておいたのだ。 「マンションは、どうなった?」 「家賃は、まとめて払ってあるみたいです。私が卒業するまで」 「そうか」  考え込む先生に、笑ってみせる。 「まぁ、大丈夫です。なんとかなりますよ」  気楽すぎるだろうか、と思いながら、そんな言葉を告げる。先生は、一瞬だけ眉をひそめたが、すぐに考えるような表情になる。 「そうだな。私は、きみの成長を見守るだけだ。今は、学生らしく生活し、卒業しろ」 「はい」 「卒業してからの進路は自分で決めろよ。もう、お前の『お父さん』はいないんだ。就職も、進学も……結婚も、自由だ」 「結婚?」  それは、卒業後の選択肢としては考えていなかった。 「まぁ、お前の面倒を見れるのは私くらいだが」 「私と結婚してくださるんですか? だったら、私の名前、石井になりますね。わぁ、なんだか、それって嬉しいです。石井渡月。なんだか、ゴロもよいですね!」 「……私本体はおまけか」 「え?」 「いや。もう、食べよう」  この日常が、どれだけ続くのか。明日終わるのか、一か月後なのか、それとも生涯続くのか。そもそも、生涯がいつまで続くのか。  何もわからない不確かな日々が、やってくる。  そんな不確かな未来への期待と不安。  それらを感じることができる今を、私は、とても幸福に思う。   了
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