1、須藤先生との最悪な出会い

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1、須藤先生との最悪な出会い

 私が通う医療福祉刹那専門学校は、自宅の最寄り駅から電車で二十分のところにある。駅チカで利便さにも長けた福祉系の専門学校で、介護福祉学科、作業療法学科、看護学科がある。その中でも、高卒でなおかつ二年で卒業できるという、介護福祉学科に私は在学していた。  春も終わるというのに、朝の空気はひんやりと肌を撫でる。私は教科書の入ったリュックを背負って、近鉄奈良駅の改札を出た。学校は、ここから歩いて五分とかからない。  時計を見れば、予鈴にはまだまだ時間があった。  奈良市の中心、ひがしむき通りをゆったりと歩きながら、朝の時間を過ごすのが、専門学校へ入学してからの楽しみになっている。歩くたびに、リュックについたお気に入りのストラップが、しゃらんと揺れ動いて小さな音をたてた。  奈良へ引っ越してきたのは、高校卒業と同時。高校生活では、コミュニケーションという壁を超えることができず、切磋琢磨したあげくに自滅して、いっとき不登校になった末に単位のみ通信で取得、その後心機一転、奈良へ引っ越してきた。  元々寺社が好きな私は、ひと目で、古風で人情あふれる街並みや世界遺産が当たり前のように存在している奈良に、心惹かれたのだ。  ひがしむき通りには、古くから奈良にある和菓子屋さんが沢山ある。それらに混ざるように、ファーストフード店や薬局、百円均一など、現代の建物も顔をのぞかせており、時代の混ざりあう雰囲気に、ああ観光地だな、と感慨深くなるのだ。  ふと。  ひがしむき通りの三条通り側、シャッターが下りた、元は何かの販売店だっただろう店舗の前に。昨日まで見かけなかった、露店カートがあった。  露店カートは、木目の美しい木製で、安っぽいプラスチックやビニールは使っていない。商店街のなかなのに、自然が湧いたように目をひく美しさがあった。露店カートには、緑の蔦がセンスよく絡まっており、本物の蔦だと思ったが、近づいて見てみると、造花だった。 「本物かと思った」  ずりずり、と蔦から生えた葉っぱを触りながら、呟いた。 「よく言われます」  予期せぬ返事が返ってきて、私は、がばっと顔をあげた。  露店カートに見入ってしまって、傍らで露店の準備をしている男性に気づかなかった。背が高く、スマートな体型の男性だ。グレーのキャスケットをかぶっており、黒縁の眼鏡をかけている。  私は、何度も目を瞬いた。  その男性は、とても美しい容姿をしていた。こんなに整った顔立ちの人間がいるんだ、と思いもしたが、それよりも、私が目を瞬いた理由は、既視感だ。  どこかで、会ったことがあるような気がする――けれど、それがどこか、思いだせない。
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