4、須藤先生は、たまに良いことを言う

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4、須藤先生は、たまに良いことを言う

 二度目の、選択授業の日がやってきた。  隔週の水曜日にある選択授業について、クラフトの石井先生がハンサムだという噂は瞬く間に広がり、授業が始まる前の休憩時間には、職員室の前に女生徒がわんさか集まった。  黄色い悲鳴があがるところを見ると、くだんの石井先生は職員室にいるのだろう。私は、職員室前に張り出されているボランティア募集の一覧が見れないことに対して、先生を恨んだ。  ボランティアは、レクリエーションの授業で必ずこなさなければならない過程だった。好きなタイミングで好きなボランティアに参加できるので、気分が向いたときに、ふらっと張り紙を見にくるようにしていたのだ。  まぁ、仕方がない。  もともと、前の時間は実習のために教室移動だったので、ついでに職員室に寄っただけだった。さっさと諦めて教室に戻ると、加納さんに声をかけられた。 「鏑木さん」 「なに?」  ふふふ、と含み笑いをする加納さんと、これまた似たような笑みを浮かべるのは、その隣にいる美月さん。 「ねぇ、鏑木さんってクラフト選択でしょ? いいなぁ、石井先生かっこいいよね。さっき見に行ってきたの」 「うんうん、大人の男の人って感じ。それに、モデルみたい!」  きゃっきゃっと二人でキャッチボールを繰り返したのち、私へ向き直って、加納さんが続けた。 「クラフトってどんなことをするの? 先生と話す機会ってある? 結婚してるかどうか、恋人がいるかどうか、聞いてもらってもいい?」 「ちょ、みこ!」 「いいじゃん、気になるんでしょ? あたしだって気になるもん」  ノリノリの二人に水を差すようで申し訳ないけれど。 「授業は淡々と過ぎるし、そんな機会ないかも」 「機会があったらでいいから。ね! 今度、アイスおごるから」 「……わかった、機会があったら」  頷いた私に、ありがとう、と加納さんたちはお礼を言う。まだ何もしてないのに、ありがとうの前払いは困る。そういえば、この二人、というよりも、加納さんはどうして、私に構ってくるのだろう。  一人でいるから、かわいそうだと思われているのだろうか。加納さんの私を見る目が、どこか憂いを帯びていることにも気づいていた。  考えても無駄だ。  答えは出ないし、出たところでどうでもいい。  私は考えを頭から追い出して、次の授業に備えて教室を移動した。 ***
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