4人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
波打っていない大海原は鏡のようで、雲ひとつない青空と昼の月が映る。しかし、この月はとても大きくはっきり見える。ここはお前達の地球ではない。ましてや、お前達の世界ではない
海面に静かに波紋が広がる。その中心に人が降り立つ。銀糸のようにも見える水色の髪が靡く。その者は一息ついてて空を見上げた。そこには燃えるような赤い髪の少年が海面へ降り立とうとしていた
「…またあの御方に御用ですか、ラハット様?」
その者は少年に問う。彼は答えるように、ニィッと笑う。褐色の肌に映える白い歯が見えた
「そうだヨ
どうせ奴は暇だろウ?」
そう言い彼は歩き出す。全くもう、と水色の髪の者はため息を吐いて彼について行く
彼等がいる海しかないこの世界の名は『末世』という
一言でこの世界を表すとすれば、『神々の休憩所』だろう。あと付け足すとすれば、神々しか入れない世界であり、他の種族-人間、悪魔、妖怪など-の干渉はほぼ不可能である
以上から、ラハット達が神である事はお前達でも分かるはずだ。とりあえず2人の紹介だけしておこうか
まず、“ラハット”だ。実は、彼いや彼女は、始まりの世界・『始世』の創造神である。別名“白神帝”や“世界を照らす者”と呼ばれている。今は少年の姿だが、これはあくまでも彼女の趣味。実は自称褐色肌美人だったりする
次に水色の髪の者だ。此奴はこの世界の神、“虚神・ハロウ”である。別名“月夜見之巫女”や“夜の支配者”と呼ばれる、唯一無二の現人神だ。自分の目で見ていないから直接本人に聞いた話だが、元々人だった為、陰陽のバランスが保てず中性的な身体つきなのだという。因みにハロウは「女ですよ」と主張している
ハロウは頭を抱える
「ここで暴れて私の世界を壊さないでくださいね」
「分かっているヨ、ハロウ
僕を誰だと思っているんだい?」
__俺の世界を奪った…ただのコソ泥だ
風に乗って俺の声が彼女達の耳に入る。その瞬間吹かないはずの暴風が吹き、嵐を呼び、海をかき回し、海水を乗せて竜巻が起こる。俺はその中にいる。そうして、現在に至るのだ
俺が左手で竜巻を回転逆方向へなぞると、一瞬にして風が止んだ。青い髪が靡き、風で舞う少し目にかかるぐらい長い前髪から銀色の瞳が覗く。俺はゆっくりと海面へ降りると、俺の着地点から円状に波紋が浮かんだ
俺に何のようだ? 俺はラハットを睨むが、奴は微笑んだ。どうせ来ると思っていたんだろう
「やぁ、来ると思っていたヨ
…ゼレン」
「ハッ…嘘をつくな、ペテン師が」
…ほらな、この通り全て見透かされる
だから俺はラハットが胸糞嫌いだ
俺の紹介をしておいてやる
俺は自分の世界を持たない“ゼレン”という名である。別名“黒神帝”・“輪廻の創造神”とも。まぁ…世界を持たない、というのは少し違う。俺は元々、『始世』の創造神になるはずだった。そのあと色々あって、俺とラハットは戦い、そして…俺は、負けた。そんなことがあったおかげで、俺は何千年もの間この世界でのんびり過ごせたんだがな
「“黒神帝・ゼレン”、少しばかり頼みを聞いてくれないか?」
ラハットは俺を見上げながら問う
俺がとりあえず頷くと、ニンッと彼女は笑った
「『人世』は知っているね?」
聞いたことぐらいはある。人世とは人間の住む世界で、“者神・ペルゾーン”を創造神とする。大昔は様々な国家があり、契約・協定を結びながら成り立っていたが、今は1つの連合国があるのみだ。国家が連合されたのは、戦が絶え間なく続いた500年という期間があったから、とペルゾーン本人から直接聞いている
ここらで世界について説明しておこうか
現段階で計13の世界が存在する。種類は2つ。『◯世』と『◯界』である。『◯世』は始世の初樹に実った果実から成り、もし創造神がいなくなっても存在し続ける世界であり、『◯界』は創造神が自分の力で創り、もし創造神がいなくなったらすぐに崩壊してしまう世界である。因みに、人世は初樹に実っていた金貨のような黄金の果実“金実”から成り、末世はガラスのような透明な果実“澄実”から成る。さらに、果実の形は全部林檎の形で香りは無く、当然食べられない
それで…? 俺は頭を抱える
「俺はその人世に行かなきゃいけねぇのか?」
「ご名答。人世を創った金実が、少し前に何者かの手によってバラバラに破壊されてしまってネ…。その破壊の衝撃でその欠片は異世界まで飛んだ。さらにその世界には強化された魔物が溢れかえったんダ」
「それを防ぎつつ、魔物から人間を護れってか?」
俺はまた彼女を睨む。何故俺なのかは分かっているし、面倒な事なのは確実だ
神にも可能不可能がある。異世界転移だ。出来るのはこの次元の三柱である“ラハット”、“ハロウ”、そして“ゼレン”、俺だけだ。何故この力が俺達3人だけ持っているのかは俺達本人ですら知らない。だが、それだけの存在価値がある、という事だのだろう
「…ふざけんじゃねぇ
お前らがやればいいだろ」
「どうせ暇でショ?」
「どうせ、は余計だ
…ハァ」
ラハットと話すのも時間の無駄だ。仕方なく承諾した
俺はハロウから1枚の白い紙を受け取った。そこには以下の事が書いてある
≡設定≡
名前…ゼレン・エラーブル
年齢・性別…19歳、男
詳細…両親は5歳の時に他界し、母方の祖父母の家で育てられた麒麟児。祖父母は15歳の時に他界。今は王都にあるアパートを借りてアルバイト中。次の月に“箱舟の鍵”国立学校に通いたいと考えている。受験日は転移と同日の午前10:00から
神とバレないよう努力すること
彼女は話を付け足した
「学校に通う理由は、王族の人間達と交流を持てば、情報も容易に手に入れやすいからだヨ」
俺は眉をひそめる。だが、考え方としては俺は賛成だ。ラハットは微笑んんでいた
「じゃ、それでよろしくネ
…あ、少し設定変えてもいいヨ!」
彼女は親指を立てる。何が、いいヨ!、だ。馬鹿げてやがる
「欠片の件は急いだ方がいいか?」
「別にゆっくりでいいサ」
そうは仰いますが、なるべく早めにお願い致します。ハロウが俺の耳元で申し訳なさそうに言った。俺は小さく頷いた
「…フッ」
「…何だヨ、ゼレン?」
いや…と俺はラハットの頭をポンポンと叩く
「ただその姿になるお前の精神力には負けるな…と思っただけだ」
「ハァ?! べっ…別にいいだろう、僕の勝手だシ!」
俺は彼女の文句を聞き流し、腰に差していた真っ黒な杖を取り出す。その先は枝分かれしていて、所々に銀と青の宝石が散りばめられている。唯一無二の魔法杖で、魔法を使う時にしか使用しない
彼女達から少し離れた場所で、一回だけ海面を杖で突く。直後、海面が波打ち、俺を中心に海面を覆う金の布ように光る美しい魔法陣が浮かんだ。俺は彼女達を見る。少し微笑んで見せた
「じゃあな、同胞達よ
【転移魔法・自余の鳥居】」
俺は金の帯・銀の帯・透明な帯に包まれた。雲ひとつない青空が俺を出送りに来たような気がした
さぁ、神の果実を喰らった愚かな者よ。黒神帝・ゼレンが直々に成敗してやろう
最初のコメントを投稿しよう!