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ここは俺の城
嵐のような彼女は、次の日もその次の日も1人でも現れた。
どうやら近所らしくて歩いて来るらしい。聞くと正直に何でも答え…免許がない事、車がない事、そして…なぜダーツを辞めていたのか教えてくれた。
「私が投げ始める事で、ここの常連客が来なくなったら迷惑だと思うので、正直に言います…私はマルさんと出会った頃の店で出禁になりました…その後もネカフェやどっかで続けてても、カードを通してると…アイツまだ投げてる…アイツあっこで投げてる…って言われて避けられてるのが嫌で辞めました…当時のダーツもカードも無くなって、ありません…」切実な彼女の正直な告白だった。
ダーツをする時に、カードを通すと誰がどこで投げてるか携帯で分かるようになっている。非通知という設定も出来るが、彼女は…非通知にする事で偶然にも遭遇する昔の仲間に申し訳なくて、出来なかったらしい。
気にしなくて良いよと言ってくれる人がいても、同じように…いや、それ以上に…まだアイツ投げてるの?じゃあ、そこに行かないと言う人もいる…それを彼女は気にしてダーツを諦めた。
たいして傷付けた方は覚えてないが、傷付いた方は…ずっと覚えているのだと知った。
正直なとこ俺は当時、関わっていたはずの時期なのに全くその記憶も覚えもない。申し訳ないほどに…でも、彼女はずっと覚えている。
そして、初めて好きだと思える趣味を諦めないといけなかった…ずっと続けられてる俺には理解できなかった…辞めたくなければ、辞めなきゃ良かったじゃん?ぐらいな…でも、そうでは無いのだろう…それぐらい彼女にとっては辛い出来事だったのだ。
そんな事より、また始められた事を喜ぼう!俺の得意なポジティブシンキングが出てくる…どっかで何かしら変わるかもしれない風を感じたから…それでも、彼女はネガティブだった。
正直、イライラした。
誰に何と言われようと店をオープンして投げ込んでる自分を否定されるようで…好きなら好きで投げたら良いじゃない!?そんな気持ちで話を聞いていた。
どれだけ切り捨てられる事の恐怖も知らず、ひもじいなかでの念願の店の存続だけしか考えてなかったのかもしれない。
毎日、面倒な彼女の話を聞く…ネガティブな話を…正直、イライラする。
「投げたいと思うなら、来れば良い…そういう人がいて良い!それが俺の店だから!」そう言うと彼女は笑って泣いた。
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