Chapter1: Bottom layer

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「あら、和一のお友達?」  九部の背後にいたのは宍戸の叔母、希與子だった。ちょうど外出から帰ってきたところらしい。 「はい、同じクラスの九部です。今日は藍衣先生と一緒に家庭訪問に参りました」 「あらやだ、そうだったの? まあ、私、出かけてましたからあまりお構いもできませんで……お父さん、ちゃんとしてくれたかしら?」 「大丈夫ですよ。こちらも突然お邪魔しましたので、どうぞお構いなく」 「本当にお粗末で申し訳ありませんが、どうぞごゆっくりなさってくださいね」 「はい、ありがとうございます」  希與子が部屋に入ると九部はホッと胸を撫でおろし、スマホを取り出した。そしてIPアドレス検索サイトを開き、現在接続されているIPアドレスを調べた。すると、次の通りの結果となった。 【221.7x.161.21x】  そしてメモアプリを開いて確認する。クラスのグループチャットの投稿、山口への密告、そしてサイトの書き込み……これらのIPアドレスと完全に一致した。 (よし、とうとう証拠を掴んだぞ)  居間に戻った九部はこの家のインターネット接続のIPアドレスが件のものと一致したことを恵里菜に耳打ちした。和彦も話すことがなくなってきた様子だったので、適当な頃合いを見て恵里菜と九部は宍戸家を後にした。  道すがら、恵里菜は自分にも言い聞かせるように語った。 「確かに、二年B組のグループチャットに伊吹を中傷する書き込みをしたり、あるサイトに日向を騙って山口のイジメを曝したり、その記事を山口に密告したり……それが宍戸の仕業ということは掴めたわ。でもそれを突き付けたところで宍戸が行動を改めるやろうか……それに究極的には怪文書の送り主Xに犯行声明を取り下げさせて初めて事件解決や。Xが日向やったとしても、どうやってアプローチしたらええやろか」 「ともかく、X=日向の証明が先決ですね。また泉刑事さんに頼んでコンビニを調べてもらいましょう」       ♰  恵里菜と九部は再度泉刑事に同行してもらい、エイティーンマート長興寺店を訪ねた。もちろん店長にも足を運んでもらった。 「この間の映像ですね……はい、どうぞ」  店長は問題の時間のビデオ映像を再生させた。日向がFAXを利用したとすれば、必ず防犯映像にも映っているはずである。しかし……。 「日向と背格好の似た人物が結構いますね」 「比較的顔のはっきり映っている人物を除外して、消去法で特定していきましょうか」  そうして一人一人除外し、最終的に一人に絞り込めたが、その映像では日向とは断定し難かった。 「念のためレジ記録も見てみましょうか」  店長はFAX送信当日のレジ記録を検索して調べた。 「おや、こちらICOCAカードで支払っていますね。当然IDも記録されています」 「もしかしてICOCAカードのIDから使用者が特定できたりするんですか?」 「いやいや、ICOCAカードは誰でも匿名で購入できますから原則的には個人の特定はできません。ただし、学生さんの場合、ICOCA定期券を使用している可能性があります。その場合、購入時にはきちんと名前を記入し、身分証を提示する必要がありますからね、自ずと所有者が判明します」 「なるほど、そうするとJRに問い合わると分かるかもしれませんね」  そうして一行は新大阪駅へと向かった。だが、最初にJR東日本のみどりの窓口に入ってしまい、ICOCAカードはJR西日本の取り扱いなのでそちらに問い合わせて欲しいと言われた。 「何や、かったるいのう。昔は国鉄言うたら国鉄しかなかったんやけどな」  泉は少し苛立ったが、恵里菜と九部はあまり気に留めずJR西日本のみどりの窓口にさっさと入って行った。窓口にはかなりの乗客が並んでいたが、泉は警察手帳を掲げて窓口に行った。 「ICOCAカードの持ち主のことで聞きたいことあるんやけどな」  すると受付の女性が内線電話をかけ、上司と思しき駅員を呼び出してきた。 「お待たせしました、どうぞこちらへ」  その駅員は奥の事務室へと一行を案内した。 「ICOCAカードのことでお問い合わせとのことですが、事件の捜査でしょうか?」 「ええ。その容疑者がICOCAカードを利用したのですが、IDからカードの所有者を特定できないかと思いまして」 「かしこまりました。少々お待ちください」  と駅員は言ったが、ほとんど待たずに検索結果が出た。「えーと、こちらのカードですが定期券付きではない通常のICカードですので、所有者の特定はできませんでした」  覚悟はしていたが、その言葉に一同は落胆した。だが駅員は続けた。「ですが、このカードは新大阪駅の券売機で購入されてますね。購入日時の券売機付近の防犯映像を確認すると、もしかして該当の人物が映し出されているかもしれません。いちど鉄道警察隊のほうでご確認いただけますでしょうか」  その駅員の助言に従い、一行は鉄道警察隊へと向かった。入口に「列車内ちかん被害相談」と書かれた手書きの大きな木の板が掛かっているのをみて、恵里菜は一瞬何の施設かと思った。泉刑事が警察手帳片手に中に入ると、警官たちが敬礼して迎えた。 「……というわけで、この日時の中央口券売機付近の映像を見たいんですがね」 「了解しました。調べてみます」  若い警官が防犯映像の検索を始めた。おそらくこの中で一番コンピューターに慣れているのだろう。 「……出てきました、こちらです」  するとコンビニで見た時より鮮明な映像が映し出された。しばらくすると一人の高校生くらいの男性が券売機に並んだ。ただし背を向けていて顔がわからない。 「こっち向け、はよこっち向け」  泉は苛立って画面に命令するが、当然向こうには聞こえない。そして画面の中の男性が購入を済ませると、徐々にカメラの方向に向きを変えた。一行はその顔の部分に固唾を飲んで注目した。そして完全に振り向いた時、その顔がはっきりと映しだされ、恵里菜と九部は息を呑んだ。 「……っ!」
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