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陽葵の気持ちは知っていた。打ち明けられたわけではないが、近くで見ていれば伝わるものがあった。だから、わたしも言い出せずにいた。わたしも綾汰のことが好きなのだと。
わたしの気持ちを知らない陽葵は、誰に遠慮することもない。ぶっきらぼうな綾汰には可愛らしい女の子が合いそうだから、小柄で柔らかい雰囲気の陽葵はお似合いだと思う。わかっている。
男性陣が声を張り上げて話し始めた。
「はぐれても、一人にさえならなければそのまま電車乗った方がいいな。」
「おまえは一人で乗ってろよ。」
「ああー? おまえ、そうやって女子独占する気だろ!」
笑い声が響く。こんな人混みの中でも、わたしたちだけの世界があるみたいだった。このままずっと、変わらずにいられたらいいのに。
そのとき、突然人の波がうねった。一向に進まなかった人の列が動いて、満員電車のようにもみくちゃにされる。手を繋いでいたわけでもないわたしたちは散り散りになって、態勢を整えてから辺りを見回した。
「大丈夫か?」
背後から降ってきたのは、綾汰の声だった。
「あ、よかった。誰も見付からなかったらどうしようかと思った。」
「ああ、俺もよかったと思ってるよ。」
ちょっとおかしな言い回しに聞こえて、綾汰の顔を覗き込んだ。するとそのまま、目の前が綾汰の顔面どアップになった。
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