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「……え?」
離れていった唇を目で追いかけると、やはり綾汰の顔にたどり着いた。飄々としていて、真意を読み取るのが難しかった。
すると、彼は一番ぶっきらぼうな顔を作り、ムスっとしたように顔を逸らしてから、こう言ってのけた。
「俺にすれば?」
一瞬心臓が止まったと思った。
「え……?」
「見ちゃったんだよ、翔琉に告白されてるとこ。」
「あ……うん。」
「OKするの?」
「それは……」
俯いて言葉を濁したわたしの顎を掴んで、綾汰は無理矢理視線を合わせた。
「だから、俺にしろって。」
その顔は怒っているようでいて、拗ねた子供のようでもあった。焦っているような、すがってくるような。
静かに闘志を燃やしているのがわかった。こんなに感情的になっているのは見たことがなかった。大切なことは言ってくれないのに、あまりにもあからさまな態度。
思わず愛しさが込み上げてきて、わたしは笑ってしまった。
「うん、そうする。」
いろんなことは、後から考えよう。今はこの、二人だけの世界に身を委ねてしまおう。
初めて、見つめ合って笑い合った。ごく自然に唇を重ねた。そうしてから、また笑い合った。
突然視界が開けたようだった。モヤモヤしていたのが嘘みたいだった。人混みでもみくちゃにされたことなんかも、すっかり忘れていた。
「もしもし、お二人さん。」
「あ。」
そうして気付けば、他の4人に見物されていた。
さて、これからどうするかな。
わたしたちだけの世界が、どうか壊れませんように。
「あーあ、俺完全に当て馬じゃん……。」
「おまえは当て馬でこそ輝く!」
「えー、じゃあわたしも!」
「陽葵、早まっちゃダメ!」
おしまい。
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