人生の転換期というほどではないけれど

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人生の転換期というほどではないけれど

「そうか。土淵(つちぶち)いずみね。わかるわかる。言いそうだわ」  家に帰って母親にこう言われた、と告げた。 「お母さんは、土淵先生とは仲良かったの?」 「どうかな。音大ってライバルばかりだからね。同じ先生についていて、こっちは友だちだと思っていても、向こうは敵だと思っていたかもね」  そうなんだ。確かに、子供向けのコンクールでも陰湿なやり取りは見る。  そんなところで優勝しても入賞しても未来が開けるというわけでもないのに、どうにかして相手を貶めよう、自分が上にいこうと思う子や親が多かったから、もうそりゃイヤな気分になるよ。  あの子は母親がピアニストだから審査員にいい点数を付けてもらったのよ。とか、男の子だから目立つのよ。なんて根拠のない中傷を陰で言われたこともあったな。  でもさ、それならこっちの方が上だと見せてやろうじゃないの、という競争心をあおられる結果になったんだけれどね。
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