ピアニスト失格

1/8
94人が本棚に入れています
本棚に追加
/213ページ

ピアニスト失格

   自分に才能がないと思ったのは、14歳の時だったかな。  オレは小学生の頃から地方のピアノコンクールを総なめにしていたし、なにより母親がピアニストだったから、周りからピアノが上手く弾けて当然、と思われていたんだ。  そうだな。強制されなくても、毎日の練習は欠かさなかったな。  そんな中で、そろそろ進路を決めなければという年頃。受けているレッスンの先生の勧めで、オレは母の知り合いのピアノ指導者のところへ行く羽目になった。  レッスンをしてくれているおばあちゃん先生も一緒に来てくれて、その『すごい先生』の自宅に行った。 おばあちゃん先生は、オレをピアニストにしたいらしい。  おばあちゃん先生は、かつての生徒のオレの母親をピアニストにしたというのが自慢で、当然のようにその息子のオレにも素質があると信じて疑っていなかったみたいだ。    でもオレはどうでも良かったんだ。友だちと遊ぶ時間を削ってもピアノの練習をするのは嫌だったし、母親の苦労を見ていると、ピアニストという職業は魅力的には思えなかったしなあ。
/213ページ

最初のコメントを投稿しよう!