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そう、実際の問題は母親のわたしがこの子を愛せるかってこと。愛せたら、わたしはこの子を一生庇って生きていく。誰になんと言われようとも二人で生きていくんだわ。
そう思いながらも私は再び、じっとその子を見た。
さっきからなんとも言えないいい匂いがしていた。それがこの子からだとわかった。なんてこと。
こみ上げてくる唾をゴクリと飲み込んだ。
うまそう・・・・・・。
まっ、わたしったら、なんてこと考えるのかしら。でも、食べちゃいたいくらいかわいいみたいなこと、世間でも言うわよね。全然、この子はかわいくはないんだけど。
わたしは、我が子を見つめて、再び、ゴクリと喉を鳴らした。
あの人がこの子を見たら、たぶん、あからさまにがっかりする。あの人のそんな顔、見たくない。なら、いっそのこと、今のうちにどうにかしてしまえばいいのかも・・・・・・。
あれこれ考えていると、その子はわたしの心を読んだかのように、怯えた顔をしていた。
それは突然だった。その子が割れた卵の殻から逃げ出していた。
その子が殻から飛び出た瞬間、驚いたことにその体は急に大きくなった。掌に乗るくらいのサイズだったのに、ちょっとした子供サイズになり、逃げていった。
わたしはキャアって声を上げたと思う。
追いかけようにも腰が抜けたようになってしまい、食べそこなった我が子の逃げるその背中をただ見ていた。
ちくしょうっ。
悪態をつく。あの子がいなくなってしまった。
あの匂いは結構ジューシーな肉だろう。惜しい獲物を逃した気分だ。
ふん、まあいいわ。どうせ食べても二口くらいだし。お腹の足しにはならないもの。
わたしは他の卵から顔を出している子供たちを見ていた。
他の子はわたしたちによく似て、すごくかわいい。
切れ長の竜盤目、耳元まで裂けた大きな口、それにこんなに小さいのに、もうその指にはかわいらしい鉤爪まで付いていた。
そう、わたしにはこの子たちがいる。今を見つめることが大切よね。
もうわたしはさっきの醜い子のことは念頭になかった。ただ、あの子が他の誰かの餌になることがちょっと悔しかっただけ。もう振り返らない。わたしは流れる涎をたらしながら、空になっているあの子の卵の殻の匂いを嗅いでいた。
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