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やっと人類が時間旅行できる時代となっていた。
わが社はタイムマシンを製造している下請け企業だ。
今、白亜紀の恐竜ブームで、親会社は旅行会社と組んで、恐竜見学ツアーを実施していた。
しかし、そのタイムマシンはごっつくてやたらに大きい。トラック二台分はあり、エンジン音もすごかった。だからすぐに恐竜たちに見つかり、体当たりされそうになったマシンもある。それからは安全のため、二、三キロも離れたところからしか恐竜を見ることができなかった。
もちろん、「あなたも恐竜とお友達になりませんか?」なんていうキャッチコピーからはかけ離れているツアーになっている。苦情は山のように来る。
それでもっと近くで見られ、金持ちの個人客が楽しめる小さなタイムマシンを作ることはできないかと、親会社が言ってきていた。
それが成功すれば、成金どもはこぞって行くだろうし、わが社は親会社との合併も約束されていた。
そんな経過でわが社は、一人用のマシンを製作していた。
今、その試運転の真っ最中だった。
その名は「時間の卵」だ。
卵型タイムマシンで、その大きさはダチョウの卵大。
平均的な恐竜の卵の大きさだろう。
その内面に足を踏み入れると、卵に合わせて大人の体がおさまるように小さくなる。
わが社自慢の技術だった。
しかも卵は、エアカーのように運転してどこへでも移動できるのだ。
タイムマシン自体もかなり頑丈で、例え恐竜に踏まれてもつぶれないようになっている。
まず、わが社作成の取り扱い説明書には、白亜紀に到着したら、周りの様子をスクリーンで確認し、恐竜の巣の付近を狙って着地、または走らせることが好ましいと書いてある。
もし、その時点で恐竜に見つかっても〔ただのたまご〕だとしか思われないだろう。
ボタン一つで卵のカプセルが開けられる。
それは本物の卵が割れたように見えるというデザイン課の自信作だった。
客はそうやって間近で恐竜たちの生活の様子を見物できるのだ。
きっと学者たちが大学のお金を注ぎこみ、このタイムマシンに乗り込むだろうと営業課の連中が息巻いていた。
万が一、見つかったとしてもわが社の優れた技能で、乗った人間が外から見たら恐竜の姿に見えるように特殊な3D映像が働くシステムになっていた。
もううちの会社では親会社との合併に向けて、百台ほどの生産に取り掛かっていた。
これは金のなる木だと社長もウハウハ喜んでいた。
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