市民、惑う。

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 「……ですけど、ここにもうひとつ盛り上がりが欲しいなあと……」  「……の部分は間髪入れずに突っ走っていく感じでも良いかなあと……」  「……の方が良いですよ、そっちにすれば……」  地下鉄デラメトロ名古屋港駅の近くにある中京マリンポートスクエアビルの貸し会議室。  遠くに中京工業地帯の巨大な工場街が見える窓を背にして座っている脚本家の私は、一面に資料が敷き詰められたテーブルを隔てた先で並んで座っている監督とプロデューサーの男性と共にタブレットを片手に話し合いをしていた。2年後の年末に公開する予定のサスペンス映画の脚本を読みながら、あーでもないこーでもない――あーしようかこーしようか――と長い時間を潰しつつ、監督やプロデューサーが考えた案をメモに記しながらこれから制作する映画の方向性を徐々に固めていった。  「修正点を見つけてすぐに問題も解決しましたし、早いうちに決定稿が書けそうですか?」  「ええ、ちょっと遅れるかもしれませんが、予定内には必ず」  「ありがとうございます。書けたらとりあえず私に送信してください」  「了解です」  私がそう返事すると、プロデューサーはちょっとの間を置いて話題を変えた。  「……今日はすいませんでした、私の事情で名古屋までご足労頂きまして」  「あ、いえいえ。ここ最近は家で缶詰めでしたし、ここまでの外出は良い気分転換でしたよ」  「そうですか、良かったです。今日はもうリニアで東京へ?」  「そうっすね……まあ、ちょっとここらへん歩いてから帰ります」
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