市民、惑う。

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 「せっかくなら最上階の展望フロア寄ってみてくださいよ、名古屋の港町も東京や横濱に負けない風景ですから」  「じゃあ、行ってみます」  会議室内の片付けを終えて監督とプロデューサーの2人とエレベーターホールで別れた後、私は最上階の展望フロアへと向かうべくガラガラのエレベーターに乗った。  目的の展望フロアがある最上階に着いてドアが開くと、目の前に一面の枠が無い大きな窓ガラスとその奥に見える名古屋の湾岸風景が飛び込んできた。壁や装飾品など白系の穏やかな色で統一された展望フロア内には、軽食や飲み物を販売する小さな売店と数席程度のカウンターが供えられたイートインスペースがあり、お盆明けとはいえフロア内には女子高生のグループや観光客と思われる家族連れなどの人々が楽しそうに風景を眺めていた。  フロア内をしばらく歩きつつ空いているスペースを見つけた私は、そこにある窓ガラス越しに見える南側の工場地帯の風景を眺めた。  「遠くまで続いてるな……」  広い敷地を有する火力発電所や薄汚れた建物やたくさんのパイプが張り巡らされた石油コンビナートか製鉄所らしき工場地帯が水平線の向こうまで続いているように見え、初めて見る名古屋の新たな風景に私は新鮮味を感じていた。
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