市民、惑う。

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 電車は栄駅に到着し、私は電車を降りた。が、降りたホーム上にいる多くの人々が車内の人々と同様に不安な表情でスマホやタブレットの画面を見ており、中にはその場で出会ったばかりの赤の他人と話し込む者もいた。  私はそんな不穏な空気に包まれた人混みの中を抜けて名古屋駅方面に向かう路線のホームへと向かったが、天井から提げられた案内電光掲示板を見ると『状況確認の為全線運転見合わせ』の文字があった。  展望フロアで見た製鉄所の黒煙、SNSの不穏な言葉の数々、車内やホームの不安そうな人々、運転見合わせの文字――私は、この地で只事ではない何かが起きているのではないかとますます不安になった。だが、私の目が見た光景には怪獣の姿は全く無く、もし怪獣が出現しているのならその出現以前にメディアを通じて怪獣出現の警戒情報に関するニュースで広く報道されているはずである。以前起きた茨城の怪獣災害の時は怪獣出現の警戒情報から怪獣上陸までの時間はかなり短かったものの、どんなケースであろうと怪獣上陸の前には必ず怪獣出現の警戒情報が出るはずである。  長く自分1人で考え込んでも仕方が無いので、名古屋駅まで歩く事を決めた私は改札を出て地上に続く階段を駆け上がった。
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