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置き手紙
浴びるほど飲んで家に帰ればすべての電気は消え、物音一つせず静寂に満ちていた。その時の俺はそれがどれだけおかしなことかまるで気づきもせず、ドアに鍵を差し込んだ。
高校を卒業して当時から付き合っていた諒と同棲を始めて早三年。物静かで大人しかった彼は今もまるで変わらず、世間では普通の人と言われるような平凡な奴だけど、芯のしっかりした優しい男だ。かくいう俺は、俺のことを好きだと言ってくれている諒に、安心して甘えていた。諒が何を思い、考えているのかまるで見向きもせずに、別に諒に不満があったわけでもないくせに、いつの頃からか浮気を繰り返すようになっていた。
強いて言うなら、俺がべたべた甘い雰囲気で居たいのに、クールで大人な雰囲気を好む諒とではタイプが違いすぎて、それが不満だった。身勝手な話だ。
今日は純粋に大学のサークル仲間との飲み会だったが、日頃の行いの悪い俺は、諒から疑われていることを知っていた。知ってはいたけれど、何も言わない諒に、俺も何も言わなかった。違うと一言言えば済む話なのに、それすらしなかった。
鍵を開け入った部屋は異様に静かで、人の気配すら感じなかった。こんな時間だから諒はもう寝ているのだろうと思っていた俺は、底知れぬ不安を感じて
「諒?」
と呟いた。
寝室に使っている部屋の扉を開け、そこに諒がいないことを確認した俺は途端に不安が本当のことになったのだと理解した。
「諒っ」
慌ててクローゼットやトイレや風呂場を覗いたけれど、諒は居ず、諒の荷物もなくなっている。
「まじかよ……」
思い当ることが山ほどありすぎて笑えてくる。とりあえず落ち着こうと水を飲みにキッチンに行き、小さなメモ用紙がテーブルにぽつんと置かれていることに気が付いた。酔いはとうに醒めていた。メモ用紙には待っていたけれど帰ってこないから出ていくと言うようなことが書かれていた。
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