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金髪のキミと廃部の危機
◯
「では多数決によって、文化祭での出し物はお化け屋敷に決まりました」
教壇に立った委員長が発表すると、パチパチと拍手が響く。私は拍手をしつつ、ホームルームが早く終わらないかと待ちわびていた。文化祭が間近に迫った9月下旬、まだまだ暑さが厳しくて、クラスメートたちは半袖姿だ。
「じゃあ、今日は解散」
委員長がそういった瞬間に急いで席を立つ。隣に座っている黒田くんがちらっと私の方を見たので挨拶した。
「また明日ね、黒田くん!」
「……ああ」
二学期になっても黒田くんとの会話は、「おはよう」「ありがとう」「さよなら」の三種類くらいしかない。この調子だと、席替えしたら全く話さなくなりそう。
「千秋、また部活?」
「うんそう! じゃあね」
私は声をかけてくるクラスメートたちに手を振りかえし、1年3組の教室を出た。
スマホの音楽アプリを起動させ、ポケットから取り出したちっこいブルートゥースイヤホンを耳に押し込むと、daftpankの「harder,better,faster,storonger」が流れ出してくる。daftpankの曲はサイケな感じでかっちょいいのだ。
「~♪」
お気に入りの曲を口ずさみながら部活棟に急いでいたら、何者かが目の前に立ちふさがった。私は上靴をきゅっと鳴らして立ち止まり、きょとんとしてその人達を見上げる。私の目の前にやってきたのは、怖い顔をした女の子三人組。そのうちの一人が腕組みをし、ずいっと私の前に進み出る。
「あんた、ミナトくんとどういう関係なのよ!」
「どうって?」
「とぼけんじゃないわよ。こないだ一緒に歩いてたって聞いたんだから」
「ああ」
確か、先週の日曜日だっただろうか。
近所の本屋さんにほしい漫画が売っていたのだが、棚が高くて届かないので幼馴染のミナトについてきてもらったのだ。残念ながら、私の身長は150に届かないのである。そのことを説明しようとしていたら、ピロン♪とラインの音が響く。首から下げたスマホを見ると、ユイちゃんからラインが届いていた。アプリを開いてみるとこう書かれていた。
「千秋ちゃん、早くおいでよ~相手してたらキリないよ~」
窓の外に視線をやると、向かいの窓にユイちゃんの姿が見えた。目が合うと、ちょいちょい私を手招く。
「ごめん、急ぐから!」
私はぱんっと手を打ち合わせて、女子生徒二人の間をすり抜ける。
「あ、ちょっと待ちなさいよ!」
こんなときは背が低いのが役に立つ。私は女生徒たちが伸ばしてくる手を逃れ、だーっと廊下を走った。
「すばっしこいわねあのチビ!」
「追いかけるわよっ」
後ろから追いかけてくる足音が聞こえてくる。なんだか鬼ごっこみたい。
廊下の角を曲がる際、前からやってきた人物にぶつかった。つんのめった私の腕を、そのひとが掴む。顔をあげると、メガネをかけた男子生徒がこっちを見ていた。
「あっ、かいちょー! こんにちは」
「おまえか、紅木千秋(あかぎちあき)。廊下を走るな」
彼はウチ(明日葉(あすは)高校)の生徒会長、通称アス長。本名はなんだっけな。なんか色の名前が入ってた気がする。黒髪をぴっしりとなでつけ、眼鏡をかけてるせいで神経質っぽい顔立ちがよけい際立っている。イメージだけど、窓のさんをなぞって「ホコリが残ってる」とか言いそうなタイプ。生徒会長は腕組みして私を見下ろした。
「チャイムが鳴るなり猛ダッシュか。今日もあのくだらん同好会に勤しむ気だな」
「くだらんくないです! アカペラ部はめっちゃ楽しいですよ」
私はdaftpunkの曲に合わせてボイパした。クルッと回って会長に手を差し出す。
「さあ会長もご一緒に!」
「誰がやるか。俺はクラシック以外に興味はない」
会長は私が差し出した手を叩き落とし、不敵な笑みを浮かべた。
「のんきにしていられるのも今のうちだ。明日重大発表がある」
「じゅーだいはっぴょう?」
「ひらがなで発音するな馬鹿者。何を発表するかは明日になってのお楽しみだ。それまでせいぜい耳障りな音を出してろ」
私は去っていく会長の背に叫ぶ。
「耳障りじゃないです!ボイパはかっこいいですよーっ」
会長はこっちを見ずに歩いていく。あのひと、なんでか知らないけどアカペラ部を目の敵にしてるみたいなんだよね。
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