鳥餅雛乃

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鳥餅雛乃と別れ畦道を歩く頭の上には入道雲が青空を半分程隠している。道の途中にある一本松の下で、ふうと溜息を漏らした。 「珍しいな。メアリが溜息とは」  水色のジャンパースカート姿にカチューシャをした姿はメイドに見えない事も無いが、どこかでチグハグした違和感のある服装である。いつもパーカーの幽霊は疎か、妖怪も見え無い。神通力も無ければ口寄せ、除霊も祈祷もお祓いも出来ない霊媒者を名乗る男に言われたくも無いだろう。  僕にできるのは、そう。  精々就職活動くらいの無職なのだから。  今も良く分からない。お金を貰っている以上無職ではないのですよ。大空とメアリは言うのだけれど、夏の初めの頃に宙禅堂でこの東海林(しょうじ)メアリに雇用されるまでの僕は凡そ千近い人間に祈られる様な、活躍を期待され続ける無職だった。  人間と言う単位では無いのだ。  一つの会社に何人務めているかは知らないが、千以上の会社から今後の活躍を期待され祈られた人間を僕は自分以外知らない。  神様よりも神様扱いされていた。  そんな僕は気が付くと、この東海林メアリと言う不思議なケラケラと笑う彼女と行動を共にしている。 「そうですかね。大空と関わったことでこの先は溜息だらけになるんじゃないかと、少し不安ですよ」 「酷いな」  ケラケラ笑いながら、二人で木にもたれている状態だ。  流石にこの暑さ、いくら彼女が只者では無いとしても、疲れるのだろう。こうして木陰で休む事に成るとは思わなかった。 「それにしても、疲れて居ないんですか、結構暑いですが」 「ああ、僕はほら、自分の家の方が、気温高いから」  あぁとメアリは呆れている。  エアコンも扇風機も冷蔵庫も無く、水すらも公園から調達している人間から言えば大して辛くはない。押入れに閉じこもるのは流石に辛いが、風が流れているなら、なんとかなる。 「もう大空は人間じゃないのでは無いでしょうか。即身仏」 「やめてくれ、確かに、食べ物迄制限されているし、木の実で飢えを凌ぐこともあるにはあるけど、仏の道を進める様な人間では無いぞ」  無職を極めて即身仏になったなど、本物の方に失礼すぎる。 「そうですね。大空はまず人間の道から踏み外さない様に大空を見て居なければ、なりませんからね。私も心配ですよ」  空を見て居る。 「そっちの空の話か。入道雲って妖怪みたいだよな」 「大入道ですか。そうですね。曇って形も変わるし、大きさも色も違うし、確かにそうですね。妖怪なのかも知れませんね。それより、私が見ていたのは、こっちですね。雨が来ますよ」  指を一つ、二つと数え十本目の指を負った時、ポツリと一粒視界に入った気がした。それから、空は黒ずみ大きな音と共に大雨となった。  だから、松の木に隠れたのだろうか。  雨宿りするには松の木ってどうなのだろう。  しかし、この畦道には他に雨宿りが出来るところは見当たらない。 「どうせ、通り雨でしょう。それで、大入道と言えばなんでしたっけ」  雨音の所為で声があまり聞こえない、お互い少しずつ身体を近づけ、松の木の少ない屋根に身を縮める。 「僕が知っているのは、仙台の伊達政宗が退治しようとした大入道ですね。結局はただのカワウソだったとか言う、アレですかね」 「大空は怪談結構詳しいですよね。霊媒者は嫌々やっているのに、不思議ですねぇ」  いつもより距離が近く、メアリの声が耳元で少しくすぐったい。  水色のジャンパースカートは水に濡れ、濃い青になり白いブラウスには肌の色が透けている。黒いパーカーはいつもよりも黒を主張している。  
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