鳥餅雛乃

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鳥餅雛乃

 朱色のスカーフのセーラー服を着た鳥餅雛乃(とりもちひなの)は土管の上に座り脚を組む、スカートから覗く白い脚をあまり見ない様に、視線を空に向けながら、彼女の言う言葉を繰り返す。 「つまり、カミキリムシの仕業だという事か」  僕の言葉に日焼けしていない色白な彼女は頷いた。 「その、カミキリムシと言うのは、アレだよね。あのほら、昆虫で黒に白の模様が入ったなんかでっかくてちょっとカッコイイ奴」  僕の横で、不機嫌そうに眉を顰めている水色のジャンパースカートを履いた女は、こちらの質問を聞き表情をコロリ変えてケラケラと笑う。 「大空(そら)ちゃん。それは違いますね。いえいえ、そんな昆虫も居ますけど、鳥餅さんの今の説明を聞いた上で、あの虫を想像していたのだとしたら私じゃなくてもケラケラと笑ってしまいますよ」  ケラケラと笑う人間が多数存在するとは思えないが、どうやら違うらしい。では、カミキリムシとは一体。 「大空ちゃんって、二人は仲良しなんだね。霊媒者っぽくない服装だし、それメイド服かな。カチューシャ可愛いですね」  依頼者である鳥餅雛乃はそんな風に、気さくに霊媒者である僕たちに話す。  僕は、霊媒者である。  たぶん。  名刺にはそう書いてある。 「そうですね鳥餅雛乃さん。私はこの霊媒者の宇和野(うわの)大空(そら)先生の助手的なポジションです。ワトソン博士みたいなものなのですよ」  助手なのだろうか。  助手に雇用されている時点で、パワーバランスの崩壊が凄すぎるだろう。霊媒者と書かれた宇和野大空の名刺を、今更ながらに配る。 「メイドのお姉さんは、霊媒者じゃないんだね」 「ですね。私は幽霊とか見えないのです」 「お二人は付き合っているんですか。さっき大空ちゃんって」 「いえいえ、あれは大空ちゃんと仕事をしてくださいって意味なんですよ。まさか昆虫を想像してしまう霊媒者に少し、いえかなり呆れてしまいましてね。依頼人の前で、ちゃんと仕事してくださいとは言いにくかったので、大空ちゃんと略しました」  今、ソレをばらしたら、意味が無い。  さて置き、 「大空、この依頼請けましょう」 「だな。それじゃあ、もう一度最初から話してもらってもいいかな。今度は昆虫以外を想像するぜ」
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