十三

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「昔の新聞と……あと、ここに落ちてた貴正さんの日記に、ちょっとだけ書いてあったから。お父さんとお母さんはちょうどあのあたりの沖合で、船の事故で亡くなったって。それでお前はここの旦那さんに引き取られてきたんだろ。……ふたりとも、あんなとこには居ないよ。ひとりひとり顔を見られるわけじゃないけど、とにかくいない。もしもいたんなら、砂浜を渡ってお前のとこに来てたはずだ。」 恨みと心残りに縛られて、今この子はたったひとりここに残されている。八雲さんでも難儀する手合いだ。力づくではここから離すことができない。 別れたくないけど、生きてる俺の独りよがりは無意味だ。もしも俺があっさり早死にしたら、すぐにアラタのもとにいって、貴正さんの目を盗んでたくさんデートしてやる。でも、もしごく普通の男として生をまっとうできるのなら…… 「だから、なんにも心配しないでいい。もうなんにも悔やまなくていい。何の心残りもなく貴正さんに会いに行って、安心させてやれ。でもお前と永遠に会えなくなるのは嫌だから、もし本当に生まれ変わりがあるんなら、また会おう。俺がじいさんになってボケちまっても、アラタのことなら絶対にわかるから。生きてるうちに会えなかったとしても、一生忘れない。」 死んでも会えないなら、来世で会おう。貴正さんから奪えないなら、親子でも兄弟でも親戚でも友達でもなんでもいい。だから絶対に、また会おう。 もうアラタの身体に触れられないのに、俺の胸に寄り添ってきたアラタの肌は、やっぱり冷たいのだとわかる。神様は余計な力を与えたものだ。もう一度だけでいいから、折れそうなほど強く抱きしめたい。けれどもう叶わない。夜明けとともに、この透き通る身体がさらに薄くなっていく。 (ああ・・・・・) 八雲さんの気配がする。屋敷の空気が変わったのを察して、またやってきたのだろう。あるいは、ずっと張っていたのか?キツネとはずるがしこく、目ざとい生き物だ。こんなヤツ、人間の中にもいくらでもいるけど。例えば、そうだな……
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