海は、きねんの空を映す青

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 まじめに尋ねたつもりだったのに、答えの代わりに水しぶきで返されては困る。怒られるのはもっと困る。いつものことだけれど。  この空は、ぼくにとっても、るぅちゃんにとっても、記念すべき空になるのだと思う。良い記念か悪い記念か、それはまだわからない。これから先、何度もこの空を思い出しては考えることになるだろう。だから今のうちに目に焼き付けておかなければいけない。  カシャ。  るぅちゃんが顔の前で構えた仕事道具。名前は知らない。ぼくも雇い主から渡されてはいたけれど、簡単に使い方の説明を受けただけだった。だから、ぼくとるぅちゃんの間では、雇い主が説明の途中で口にしたように「残す機械」と呼んでいる。残す機械は、小さな窓から(のぞ)いた景色を、ボタンを押すだけで記録できる。記録できる回数には限りがあるから無駄に使わないようにと念を押されていた。なのに、るぅちゃんは今さっき、無駄に一回分を使ってしまった。 「サボっているところ、きちんと記録したからね。ほら、行くよ」  残さなければいけない貴重なものはぼくの背中の下にたくさんあるのに、あの機械の中にまぬけな顔をしたぼくが記録されているのはなんだか申しわけない。るぅちゃんの後を追ってぼくも(もぐ)ることにした。
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