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空というのは、こんなにも穏やかでのっぺりしたものだったのか。
大の字で体を預けた海はとても静かで、生暖かくて湿気を帯びた風がときおり水面をざあっと走る。初夏の風が気だるく、ぼくの上を通り過ぎていく。
ぼんやり眺めていた空は、乾きかけの筆で描いたみたいな雲が幾つかあるばかりだ。
時間も、空も海も風も、ぼくも、人々の営みも、何もかもが止まってしまったようで、なんとなく心地が良かった。嵐よりも凪がいい。争いよりも平和がいい。みんなそうに決まっている。
さざ波に混じって、ぽちゃんと音が聞こえた。音の先を見れば、るぅちゃんが水面からふくれっ面を出したところだった。
「どこに行ったかと思えば、またこんなところでサボって」
ぼくは、のったりとした空に視線を戻した。
「こうして空をじっと見ているとね、空が近づいてくるように思えるときがあるんだ。いや、空に落ちていく感覚の方が近いかもしれない。わかる?」
ばしゃっと乱暴な音がしたかと思うと、それはぼくの顔に降りかかった。
「ちょっと。何するのさ」
「ふぅくんは、すぐに話を逸らそうとする」
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