元聖女は神子のお兄さんとむふふのふ

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元聖女は神子のお兄さんとむふふのふ

なんでも、元気になったティロン王子が反旗を翻して王様やっつけたとか。 下剋上か。 王座に就いたティロンの傍では策動魔導術師長ことイェルハルドが魔王的不適な笑みを浮かべていたとか。策士か。 そんな怖い場所には帰れないなあ~と、王都郊外の牧歌的な村の一軒家で、日課の日光浴しつつ篤史さんとイチャラブしていたら、王城召喚をくらいました。 いきなり現れた召喚陣に拉致られたのですよ。 こういうことができる鬼畜魔導士は…。 「お前ら、ご苦労だったな。褒美をやろう」 不遜な態度のイェルハルドですね。知ってました。 「神子殿、此度のこと済まなかった。聖騎士にも、聖女の件と合わせて詫びをする。イェルハルドの言う通り、褒美を遣わそう」 黒いイェルハルドの横にいらっしゃるのは白いティロン王子ですね。 今は王かな。 て、え、イェルハルドと共同王? 何それ新しい。 「前王は自分の人気取りの為に聖女を召喚し、魔獣騒ぎを起こした。被害に遭っている人々を救ってやったと、傲慢にも聖女の手柄を横取りしていた。そして要らなくなった聖女は殺した。自分の手を汚さずに。実際にやったのはイェルハルドだ────」 と、前王様の陰謀を説明してくれているティロン王は、共同で王様業をしているイェルハルドを見つめた。 その憂いの眼差し…まさかのBL案件でしょうか。 そういう存在があることは私知ってますよ。 日本の女子高生だった時に、ちょこっと、ね。 「ここからは俺が話そう。…王に魔獣退治の自作自演と聖女暗殺を命じられ、俺はティロンに相談した。前々から王の所業は目に余ってたからな。ティロンはその場で王暗殺の決意を固めたよ。すぐに同志を集め王暗殺の計画を練りながら機会を伺っていた。けど、予想以上に聖女召喚は早く、王へ情報が洩れているんじゃないかと危惧していたところで…ティロンは病に倒れてしまった」 そこからは私も知っている。 気胸の病を患いながらも聖女に同行し、馬車で臥せってはいたけれど、被害に遭った村々では出来るだけ多くの人と触れ合い、王子としての威厳を見せていらした。 ヘタレフィルターを取り除けば、彼は身内の所業を憂いて、苦しい病と闘いながらも毅然としていたのだ。 ほんとヘタレとか評してごめんなさい。 「王を欺くためには王命を遂行するしかなかった。俺は罪のない人々を手に掛けた。聖女も殺した。ツヴァイア、お前だって…」 「えーと、そのことなんですけども、もうどうせだからここで白状しようと思います」 と、私は元聖女で隣で死んでた騎士に転生してしまったことを、余すことなくぶっちゃけた。 おそらく魂抜けた騎士に私が憑依しちゃった、なんちゃって転生だとは思うのですが。 「そんなことが起こり得るのだろうか…?」 「なるほどな。道理で戦い方が違うわけだ」 ティロン王には不審がられ、イェルハルドには納得されました。 イェルハルドのことは王だなんて絶対に呼んでやらないマン。 「…それで、俺が呼ばれたのは?」 篤史さんが疑問の声を上げる。 気づいた王二人は頭を切り替えて「おお、そうだったな」と、神子召喚に至るまでを教えてくれました。 まあ、神子召喚自体は、聖女召喚で味を占めた好色ヘタレ脳みそスポンジ王様が、己のステータス上げの為だけに、やっちまったって話ですがね。 「余は行方不明のふりをして、信頼できる者たちに匿われながら病を治していた。神子召喚を止めることも出来なんだ。申し訳なかった」 そう言いながら頭を下げるティロン王に、篤史さんは恐縮気味に「えええっと、大丈夫です。あの、その、召喚してもらったからこそ、つば沙さんに出逢えましたからあ~!」なんて、嬉しいことを…! ぎゅっと篤史さんを抱き締めちゃうぞ☆ 「ああ、お前らがくっつくことは誤算だった。だが、嬉しい誤算だったかもしれん。神子召喚の時、王をぶっ飛ばしただろ。あれで奴は神子に手を出したらツヴァイアがやべえって本能で悟ったらしい。おかげで下準備する時間的猶予が生まれた。ティロンが病を克服し、挙兵できるまでの準備がな」 そっかー。私が聖女として旅に出るまで一ヶ月も無かったけど、篤史さんが旅立つには半年以上の期間空いてますものね。 その間、着々と下剋上の準備をしてたんですね。 「準備は整ったがな、余はイェルハルドが心配だったのだよ」 「来るなって言ったのに…」 「無理だ。君は死のうとしてただろ。責任は余にあるのだぞ。勝手に死を覚悟するでないわ」 「お前に責任なんてない。臣民を脅かしたのも、革命を唆したのも俺だ」 「君だけが悪いなんて誰が決めたんだ? 共に歩もう、余たちは兄弟じゃないか──」 ええ話じゃないですかあ。 あんたら兄弟だったんかーい。 手を取り合って親愛を示し、抱擁し合って愛情を確かめ合い、ぶちゅーと接吻かまして性愛を深め…て、それはちょっと行きすぎじゃねえですか? 私と篤史さんが呆然と見てる前で「ん、んぅ」とか濃厚キスしてる二人。 どっちの喘ぎ声でしょうね。黒じゃないか?え?白もか?あんたら百合かよ。 なんかね、お邪魔なようだったから、そっと退室しましたよ。 真相も分かったことだし、私は胸中晴れ晴れとしていました。私をSATUGAIしたイェルハルドだけは許さんがね。そこだけ蟠りがありますね。 は~空が青いなあ。 両腕上げ、背筋伸ばして、のび~~~。 風が正面から吹いてくる。 吹いてくる方向、郊外に、私たちの新居がある。 褒美に貰った旧住まい王都の屋敷に帰るつもりはさらさらない。 そういえば今回の褒美は何だったのだろう。 聞きそびれてしまいました。 ま、何でもいいですよ。私には金よりも銀よりも、どんな宝石よりも大切な人が出来ましたから。 「篤史さん、私たちの家に帰りましょう」 「はい、つば沙さん。俺たちの家ですね」 手を繋いで、これからも二人の道を、二人で歩みましょう。 <おわり>
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