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「私はもはや普通の人と同じ時を生きることはできないのだ。殿の魂を求めることしかできぬ、異形の者だ」  珠ちゃんが静かに言った。それはまるで自分に言いきかせているようで、なんだか悲しくなる。目の前にいるのは、普通の女の子なのに。どうにも腑に落ちない私は、しかし言いかえす上手い言葉も見つからずにアイスティーを手にとって口に含んだ。 「早く見つかるといいわね」  お母さんは珠ちゃんの言葉なんて聞こえなかったように、にこやかにそう言った。そして台所へと戻っていく。一瞬こちらを見て目配せされたような気がしたけれど、私はなんて言ったらいいのか分からなかった。 「二度目は?」  やっとそう聞けたのは、アイスティーをほとんど飲みほした頃だった。珠ちゃんは私を見て、申し訳なさそうに微笑む。 「二度目は桜の木だった。蝶よりは長生きしてくださったけれど、いつしか花を咲かせなくなり、温かみがどんどん抜けていき……気付けばそれは骸となっていた」  三度目の別れ。それはどんなに絶望的なものだろう。相手が恋しい人ならなおさら。それでも珠ちゃんは次を待ったと言う。ただひたすらに、殿の魂が再び感じられる日を。 「お殿さまの魂を求めて旅をしてたなら、この町に生まれ変わりがいるかもしれないと言うこと?」 「分からない。この国にいることは分かっているけれど、どこにいるのかは……」 「今回は人間だと思う?」  珠ちゃんは「分からない」と繰りかえした。そして私を見て笑う。 「ひなたが悲しむことはない。私は、殿の魂を感じられるだけで実のところ幸せなのだ」  私は自分がそんなに悲しそうな顔をしていたのかと思うと少しばつが悪くなる。だって珠ちゃんが悲しんでいないのに、全く関係のない私が悲しむのは違うと思うから。それでも、四百年以上たった一人きりで一つの魂を待つ自分を想像してみると、それはやっぱりとても悲しいことで。珠ちゃんの「幸せ」が強がりに思えて仕方がない。 「幸せは、人ぞれぞれよ」  私の考えを見すかしたように、お母さんが台所から声をかけてきた。私と目が合うとお母さんはにっこりと笑う。それはまるで私が恋も知らない子供で、窘められているような感じだった。 「とにかく今は、お殿さまの生まれ変わりさんを探さないとね」
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