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 相変わらず偉そうな口調。けれど彼女も言葉を選びながら話している風に見えた。やっぱり普通とは違う。「この時代から見ると」って言うのも変。怪しい人物だと自分でも分かっている点は、少し安心だけど。 「……正直私自身、行き詰っているのもある。だから、話してみようと思う」  行き詰っている、というのはあの「どこだか分からない、でも行かなければいけない場所」のことだろうか。ふとお母さんと目が合う。同じことを思っていたのかもしれない。  とにかく、あんなに話したがらなかった話を彼女はしようと言うのだ。自然と身構える形になり、珠ちゃんが次に口を開くのを待った。 「私は長く旅をしている。あなた方が思うよりずっとずっと長くだ。私の生まれは永禄九年の夏。国というにはおこがましい程の小国だったが、姫を務めていた」 永禄、と歴史や時代劇でしか聞かない言葉に、私の思考回路がストップしてしまう。自慢じゃないが、歴史は苦手だ。 「永禄って言うと……戦国時代?」  お父さんが眉を顰めて言う。そうか、戦国時代になるのかと納得しそうになり、「戦国時代?」と口に出して珠ちゃんを凝視した。戦国時代に生まれたらしい、お姫様と名乗る美少女。そんな馬鹿な。私の視線を受けながら、珠ちゃんは話を続ける。 「十五の時、嫁に入った。相手は同じく小さいが国を名乗っていた隣国の殿だ。殿とは幼い頃から縁があって、嫁ぐのにもちっとも不安なぞなかった。姉妹の中には名も顔も知らぬ殿方に嫁いでいった者もいたから、私はとても恵まれていたと思う」 「まあ、恋愛結婚だったのね」  お母さんが頬を赤らめて嬉しそうに口を挟む。随分と呑気な口調だ。珠ちゃんを見ると、表情がとても優しく緩んでいて、頬も赤く目を伏せていた。なんだかこのまま普通に恋バナにでも移りそうな雰囲気。しかし彼女は長く旅をしていると言った。その話が本当なら、この恋バナはハッピーエンドじゃないような気がする。  珠ちゃんはこほんと小さく咳をして、話を続けた。 「夫婦となって幾年か経ったある日、珍しい魚があがったからとある切り身が献上された。殿が、せっかくだから私に食べろとおっしゃってくださり、刺身としてその日の夕餉に出されたのだ。それは透きとおるような綺麗な切り身で、ほのかに甘い香りがした。そして一口食べると、例えようもなく美味な刺身であった」  うっとりと話す珠ちゃんはその時の刺身を思いだしているようだった。夕食を食べたばかりなのに、その珠ちゃんの幸せそうな表情にごくりと喉が鳴る。そんなに美味しいお刺身なんて、食べてみたい。しかしその恍惚とした表情はすぐに打ちけされ、次に彼女の口から出てきた言葉は衝撃的なものだった。
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