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 結局珠ちゃんの話を聞いた後、お母さんは「いまさら放りだすことなんてできない」と言ってしばらく家に置くことになってしまった。 「ひなたも、夏休み中なんだから手伝ってあげなさいよ」  お母さんは平然とそんなことを言う。そりゃあ別に手伝ってあげたってかまわない。彼女の話が、本当なら。 『それ、ひなた信じたの?』  お母さんと珠ちゃんが買い物へ出かけたある日の午後、電話で悠太に女の子が居候することになったと話すとそう言われた。悠太とは中学からの付き合いで、高校に上がる前に悠太から告白されて彼氏彼女の関係になった。夏休みはメールで連絡を取りあっていたのだが、今回のことをメールするとすぐに電話がかかってきて、その第一声がそれだったのだ。 「う……ん」  そのつもりはなかったのに返事が濁る。自分でもよく分からない、というのが本音だ。 『新手の詐欺とかじゃないの? そんな得体の知れない人家に置いとくの危なくない?』  悠太の言うことはもっともだ。でも。 「詐欺、とかじゃないと思う。第一女の子が人の家に居座ったって得なんてないし……それに彼女、嘘ついてるようには見えない」  言いながら、私はどうしてこんなにも悠太を責める口調なんだろうと自分でも不思議だった。無意識に珠ちゃんをかばう形になっている。 『家出して、行くとこないから居座ろうとかさ。理由なんていろいろあるじゃん』  悠太も食い下がる。確かに家出した女の子が「家出しました」なんて自分から言うわけないし、行くあてがないならこうやって家に入りこめれば野宿するよりも安全だ。けれど彼女にもリスクがある。倒れたのが、男所帯の家だったら? そもそも誰も助けてくれなかったら? 一か八かでそんなことするだろうか。 『ばか。男所帯だったら逃げればいいし、助けてもらえなくても計算なら自分で何とかするだろ』  悠太はことごとく言いかえしてくる。それももっともなんだけど、私はどうしても彼の意見を否定しようと言葉を探してしまう。 『そのうち金くれって言うぞ』  言われて私は吹きだしてしまった。珠ちゃんがお金を貸してほしいと言えば、お母さんはあっさり渡してしまいそうな気がする。でも「恩を忘れない」と言った珠ちゃんの顔を思いだすと、きちんと返しにくる珠ちゃんの姿が簡単に想像できた。 『笑いごとか!』  悠太の怒鳴り声。心配してくれるからこそだとは分かってるけど、彼は少し怒りっぽいと思う。
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