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「大丈夫だよ。お母さんあれでも見る目ある……と思うし。お父さんだっているんだから」
そこまで話したところで、玄関の鍵が開く音と「ただいま」というお母さんの明るい声が聞こえてきた。
「あ、帰ってきた。じゃあ切るね」
『ちょっ……ひなた!』
悠太の声が聞こえてきたけれどかまわず切ってしまった。階段を下りていくと珠ちゃんとお母さんが買い物袋を持ってリビングへ行くところだった。
「お帰り」
声をかけると珠ちゃんは少し照れくさそうに「ただいま」と言った。その顔を見て、やはり詐欺とは思えないと確信する。悠太に話したことによって、私の中で珠ちゃんの話がより真実味を帯びてきている。
今日の珠ちゃんは私のお古のワンピースを着ている。赤い生地に白い小花がちりばめられたものだ。もう私には小さくて着られないが、小柄な珠ちゃんにはぴったりだった。
「珠ちゃん、ひなたとこれからの計画でも立ててみたら?」
買ってきたものを冷蔵庫に入れながら、お母さんが言った。お殿さまを探す計画のことだろう。珠ちゃんはそのために旅をしているのだ。
「じゃあ私の部屋行こうか」
先ほどまで自分の部屋にいたのでクーラーがきいてる。そう思って提案したのに、「えー」と残念そうな声を上げたのはお母さんだった。「お母さんも聞きたい」と子供みたいなことを言う。
「なんでも聞いてくれ。世話になってるのはこちらだ。何でも答える」
珠ちゃんはリビングのソファに座って背筋を伸ばした。彼女もここで話すつもりらしいので、私も隣に腰を下ろす。
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