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「これまでお殿さま、本当に生まれ変わったことあるの?」  早速気になっていたことを尋ねると、珠ちゃんはゆっくりと頷き「二回だ」と言った。 「一度目はそれはそれは美しい蝶だった」 「蝶?」  思わず聞き返す。珠ちゃんは嬉しそうに、満面の笑みで頷いた。 「それって……本当にお殿さまだったの?」  当然ともいえるだろう私の疑問に、珠ちゃんはしっかりと頷く。 「どうして分かるの?」 「私には分かる」  珠ちゃんは強い口調で言った。「ずっと……」と続ける。 「ずっと、殿の魂だけを求めてきたんだ」  その切なげな口調。まっすぐに前を見つめる真剣な表情。私の胸まできゅうっと締まるような気がした。 そんなに珠ちゃんが恋しく思っていても、生まれ変わりが人間とは限らない。そんなこと思ってもみなかった。当たり前のように人間に生まれ変わり、珠ちゃんの旦那さんとして幸せに暮らしたものと思っていたのだ。昔読んだ、おとぎ話のように。 「それって、辛くならない?」  心の疑問が思わず口に出た。珠ちゃんは不思議そうに首を傾げる。 「お殿さまの生まれ変わりを待たなくても、また恋をして、一緒に時を過ごしてくれる人を探すのじゃ駄目なの?」  私の提案に、珠ちゃんは目を大きく見開いた。その表情には驚きや戸惑いが感じられる。常にまっすぐと前を向いていた珠ちゃんの視線が、出会って初めて揺らいだような気がした。しばらくして「そんなこと……考えたこともなかった」と静かに珠ちゃんは言った。 「そうね。珠ちゃんも同じように転生していたら、話は簡単だったかもしれないわね」  お母さんが言う。気付けば手に二人分のアイスティーを乗せたお盆を持ってすぐ近くに立っていた。「どういう意味?」と尋ねるとお母さんはアイスティーをテーブルに並べながらにっこりと笑った。 「一度夫婦になったら、気持ちの整理はつけにくいということよ」  恋愛結婚ならなおさらだとお母さんは続ける。よく分からない。私は幼稚園の初恋から、今の悠太までたくさんの男の人と出会ってきた。いいな、と思った人なんてたくさんいすぎて数えきれない。珠ちゃんも同じように、お殿さまだけでなくいろんな人に目を向けて、新しい恋に生きるのもいいと思ったのに。恋と結婚は違うのだろうか。結婚はそんなに重要なことなんだろうか。私は十七。もう結婚もできる歳だ。悠太と結婚すると想像してみる。けれどそれはまるで夢物語のようで、ちっともしっくりこない。
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