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 祭りに行ってから、珠ちゃんは海を見つめてぼんやりすることが多く、私はなんだか心配になってきた。もう全てを諦めているようにも見える。お殿さまを探すことも、生きることも。全てをもう終わりにしたいと思っているんじゃないだろうか。不老不死の彼女がどうやって終わりにするつもりなのかも分からないのに、そんなことを考えたりした。  珠ちゃんに付きあって砂浜を歩く。海の日差しは強く、じりじりと肌を焦がしていくようだ。日焼け止めは塗っているけど、大丈夫かなと不安になった。実際こっちに来たばかりの頃よりも肌が焼けたような気がする。珠ちゃんを見ると、ワンピースからすらりと伸びた腕は太陽に照らされてキラキラと光っているようだった。日焼け止めを塗らなくてもこっちに着いた時と同じ白い腕。以前の私なら、素直に「羨ましい」と口にしていたかもしれない。けれど今は言うのが躊躇われた。  その時、ふわりと白いものが頭上を飛んでいった。傘だ。それは波打ち際に降りたち、ころころと転がっていく。あのままでは波に持っていかれてしまう。慌てて立ちあがると、駆けよって傘を掴んだ。綺麗なレースがあしらわれた、布製の日傘だ。 「すみませーん」  どこからか男の人の声がする。声の主を探そうと見渡すと、案外すぐに見つかった。爽やかなブルーのシャツを着た背の高い男の人がこちらに向かって走ってくる。 「ありがとうございます」  深くて落ちついた声。二十代後半ぐらいだろうか。さっぱりとした優しい顔立ちをしている。 「あの……これ、あなたのですか?」  白いレースの日傘と男の人が結びつかず、疑うような口調になってしまった。男の人は気分を害した風でもなく「いえ、彼女の」と振りかえる。その視線の先には白いワンピースに黄色のカーディガンを羽織った女の人が立っていた。ぺこりと頭を下げられる。私も慌ててお辞儀を返した。そして日傘を男の人に渡す。男の人はくるりと背を向けて女の人の方へ立ちさろうとした。しかし、すぐに立ちどまる。視線の先には珠ちゃん。珠ちゃんを見ると、不自然なほど男の人を凝視していた。 「あの……?」 男の人は不思議そうに首を傾げている。 「珠ちゃん?」 私は珠ちゃんに駆けより、声をかけてみた。しかし珠ちゃんはピクリとも動かずに男の人を見つめている。その目がみるみる潤んでぽろりと涙が流れた。 「……お前様?」
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