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0. プロローグ
徐々に冬の足音が迫り来る中、街路樹の銀杏並木が黄色に染まっている。
時折吹き付ける強い風に耐えきれず数枚の葉が舞う。それでも強く、誰かにその色を誇る様に、今自分の季節を告げていた。
年によっては、この朽葉に空から降ってくる、流行を先取りした様な白粉の化粧が施されたりもするが、そのコントラストも決して悪くはない。
――もちろん、屋内から見つめるだけならば、という前提は必要だ。
だけど。
この季節になると思い出してしまう。
入り始めた少し古めかしい暖房の匂いと、金管楽器の金属の匂い。
上から見下ろすグラウンド脇の銀杏の色彩と、見知った明るいブラウンの髪の色彩。
風と共に少しだけ揺れた黄色と茶色のコントラストを。
その小さな頭が、縦に振られたその瞬間を。
たかが2年? 去れど、然れども2年。
視線を逸らした直後、鮮烈に突き刺さってきた夕陽のように、あれからも胸に、脳に、焼き付いて離れない。
あの日から――。
――いや。
あの日に辿り着く前には、もう既に。
折り目をひとつ間違えたような。
ボタンをひとつ掛け違えたような。
そんな風にして少しずつ何かが、いろいろなモノが、ズレてきていたのだろう。
それが、自分の目で確認できるほどに見えてきたのが、あの時だった。
ただ、それだけのこと。
ただ――――
――――それだけのこと。
それなのに――。
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