私と師匠

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「何をボケッとしとるんだ!」 そんなことを考えていたら、師匠の怒鳴り声が飛んできた。 師匠の声はものすごく大きい。 この間は私のトップシークレットを大声で怒鳴ってたのが近所中に聞こえてて、近くのガキにはからかわれるしおしゃべり好きのおばさんには噂されるし、ものすごく恥ずかしかったのよ! 「雑巾がけは終ったのか?」 「……まだです。」 「じゃあ、とっとと済ませろ!」 私は心の中で「はいはい」とつぶやき、雑巾がけの続きにかかった。 今この現代、フワフワとやわらかい雲の家やお洒落なレンガ造りのお城もあるのに、師匠の家はもの好きなことに日本風だ。 一階建ての縁側付きで、屋根は瓦。掛け軸にふすま。 何より悪い事には、木製の廊下はともかく部屋全てが和室なの。 これがどういう事かわかる? 畳だから、雑巾が効かなくて掃除が大変だって事よ! 師匠だって一度やればわかる! 「また手が止まってるぞ、さくらこ!」 ちゃぶ台をひっくり返す師匠。 ああ~、床に傷が……。 可哀そうな床。 あれ? ここ、廊下だよね? 私を叱るためだけにわざわざあの超重い特注ちゃぶ台を部屋から引きずり出してきたの!? ちゃぶ台返しは、師匠の必殺技。 そのためひっくり返すちゃぶ台にも異常なこだわりを持っていて、むちゃくちゃな注文をつけて一流の会社に頼んだ結果、信じられないくらい重いちゃぶ台が完成したのだ。 それを引きずり出した上にひっくり返す師匠……改めて、(違う意味で)すごい人ね。
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